第21話 心を打たれる光景 – ふたり
午後からカンは、さとしを農場へ連れていった。事情を聞いている省吾さんは、少年を豚の餌やりに誘った。 「ここの豚は食べる力を自分で手に入れていく。与えられる飼料を食べているだけじゃあ、生きる力は身に付か・・・
午後からカンは、さとしを農場へ連れていった。事情を聞いている省吾さんは、少年を豚の餌やりに誘った。 「ここの豚は食べる力を自分で手に入れていく。与えられる飼料を食べているだけじゃあ、生きる力は身に付か・・・
ソーシャルワーカーの資格をもつビョーンさんの妹は、ドイツで夫や恋人からの暴力に苦しむ女性たちの支援をしている。ビョーンさんもいくらか事情に通じているようなので、何か助言を得られるかもしれない。 カンと・・・
やはり問題は、さとしのところだった。母親は夫から少しでも離れようと思い、自分で仕事を見つけてきた。それに腹を立てた夫は、いつになくひどい暴力を振るった。身の危険を感じた彼女は息子を連れて逃げ出した。行・・・
のぶ代さんが作ったソーセージやベーコン、省吾さんが育てた豚の肉、それに新鮮な野菜を仕入れて帰ろうとしていると、農場の傍らを流れる小川の土手に新太がしゃがみ込んで、熱心に川のなかを覗き込んでいる。カンは・・・
少年は店に入ってきたときから、小さなゲーム端末を操作している。両手の親指でめまぐるしくボタンを押しつづけて片時も休むことがない。小学三年生というから、さとしよりも二つほど下になる。 「いつもこうなんで・・・
カンは夜明け前の海に出かける。波乗りをはじめたころからの習慣だ。いい波は、朝の早い時間帯に立つことが多い。 暗い岸辺には、たくさんの灯がきらめいている。そのなかに自分を迎え入れてくれるものは一つもない・・・
ときどきビョーンさんは、夕食をとるためにカンのレストランを訪れる。彼に言わせれば、省吾さんのところの豚肉も、のぶ代さんが作るソーセージやベーコンも、故国ドイツのものに劣らずおいしいのだそうだ。これらの・・・
少年は月に一度か二度、母親と一緒にやって来た。カンは彼を車に乗せて、あちこちへ連れていった。海へ行くこともあれば、省吾さんの農場を訪れることもあった。そのあいだ母親のほうは、ハハとともにレストランの仕・・・
〈どんなゲームにもルールがあります。ルールを知らないと、そのゲームで遊ぶことはできません。チェスや将棋で、でたらめに駒を動かしたって、面白くありませんよね。サッカーのルールがわからなくて、飛んできたボ・・・
前話のあらすじカンは、のぶ代さんと保苅青年の3人でコーヒーを飲んでいる。話題は、のぶ代さんが進める「えほんの郷」計画に。どうやら、子供たちの居場所づくりを目指しているらしい。 第11話 「えほんの郷」・・・
のぶ代さんの「えほんの郷」計画は順調に進んでいるようだった。省吾さんから譲り受けた空き家を、時間のあるときに保苅青年が少しずつ改修して、据え付けの本棚がある図書室や、寝転がって自由に本が読める閲覧室に・・・
はじめて会った相手をじっと見つめるやつがいる。反対に目を合わせようとしないやつもいる。合わせてもすぐに逸らせてしまうやつ。 きっと普通の育ち方をしなかったのだろう。子犬のころにいじめられたとか、狭い小・・・
前話のあらすじドイツ出身のビョーンさんは、町でサーフショップを営む。カンは子どもたちに波乗りを教えるとき、ビョーンさんの世話になっている。 第8話 ビョーンさんのこと サーフィンを習うといっても、水に・・・
ドイツ出身のビョーンさんが、この町でサーフ・ショップを営むことになったいきさつは、彼を知る人たちのあいだでは一つの伝説になっている。 理学療法士であった彼が日本にやって来たのは十年ほど前だ。火山が好き・・・
前話のあらすじ高校生になったカンは、居場所を求めるように波乗りを始めた。大荒れの夜に海で溺れかけるが、不意に風が収まり、助かった。それは、まるでトトが救ってくれたかのようだった。 第6話 たった一個の・・・
前話のあらすじカンは、動植物などの写真を撮影し、自然への思いや過去の出来事を交えた文章とともにブログに投稿している。カンのレストランには、話を聞きにやって来る客もいた。 第5話 自分はひとりではない ・・・
カンが写真を撮るのは、主に海に出かける早朝か、食材を仕入れるために省吾さんの農場へ向かう午前中だ。海や波や空の写真のほかに、植物や虫や小さな生き物たちの写真もたくさん撮っている。 〈小学生のころ、ひと・・・
外国から帰ってきて、カンが少しずつ言葉を喋りはじめたころから、あの子は普通の青年に戻っていった気がする。もちろん喜ばしいことである。同時に、ちょっと寂しくもあった。わたしたちの関係は変わらなかったが、・・・
前話のあらすじ省吾のもとで立派な大人に成長した保刈青年は、のぶ代という女性と結婚した。二人の間に生まれた新太は、カンに懐くようになっていた。 最初はハハのパン屋を手伝いながら、客に簡単なサンドイッチや・・・
男は名前を保苅という。海に落ちたカンを連れて、ずぶ濡れの姿でトトとハハの前に現れた青年である。あれから十年が経ち、彼もまた立派な大人になった。保苅青年を省吾さんのところに連れていったのはトトだった。青・・・