人の幸せを願って寄り添った生涯 – わたしのクローバー
辻 治美(天理教甲京分教会長夫人)
1969年生まれ
京都市内の天理教の教会に嫁いで、今年で27年になります。会長であった父と二人で、多くの人たちに寄り添い、導いてきた母が、4年前の6月に80歳で亡くなりました。
家族に見守られて
訪問診療の医師から母との別れが近いと告げられたのは、2020年4月のことです。そのころ、新型コロナウイルスの感染拡大により「緊急事態宣言」が出され、遠方の大学に通う長男と、高校で寮生活を送る次男が自宅に帰ってきました。大好きな4人の孫が揃い、母は心から嬉しそうでした。
子供たちは毎日交代で母のベッドのそばに付き添い、食事の世話などを手伝ってくれました。非常事態下のステイホームではありましたが、母を囲んで賑やかな日々を送ることができました。まるで母への恩返しの時間を、神様がプレゼントしてくださったように思えました。
6月のある日、母の容体が急変しました。その日はちょうど母の兄弟が揃ってお見舞いに来て、顔を合わせることができたのです。
会わせたい人に連絡を取るようにと医師から言われ、母は駆けつけた一人ひとりに手を合わせて「ありがとう」と唇を動かしました。私たちも母の手足をさすりながら、ありったけの感謝の気持ちを伝えました。
そうしてみんなが見守るなか、母は穏やかに息を引き取りました。
2年余りにわたって在宅療養を支えてくださった医師は、「これまで多くの方々の看取りをさせてもらったが、家族や友人の方が見守るなかでお亡くなりになった経験は初めてです。感動的でした」とおっしゃってくださいました。
きっと、また帰ってくる
後日、お別れに来られた看護師さんが「ご自身がつらいなかでも、いつも周りの人たちへの感謝を忘れない方でしたね。私たちは短い間しかお会いできませんでしたが、きっと多くの人たちに尽くしてこられた人生だったのでしょう。だから、みんなに愛されて、こんな奇跡のような旅立ちをされたのだと思います」と、涙ながらに話されました。
その言葉を聞いて、涙が溢れて止まりませんでした。母は動けなくなっても、周りの人に大事なことを伝えて、命を全うしたのだと思うと、胸がいっぱいになりました。
弔問に来られる方々に、私はよく、こんな話をしました。
「天理教では、亡くなることを『出直し』と言います。魂は生き通しで、古い着物を脱ぐように体を神様にお返しし、また新しい体をお借りして、縁のあるところに生まれてくると聞かせていただきます。母はきっと、また大好きな家族のところに帰ってきて、いつか会えるような気がするんです」
ある方は「出直しって言葉、初めて聞きました。そう考えると、また会える気がしますね。きっと辻さんは、大好きな皆さんのところに、すぐ帰ってきはるわ!」と笑顔で話され、和やかに母とのお別れをしてくださいました。
人の幸せを願い、人に寄り添って愛情を尽くしたお母さんの通った道を、私も歩んでいきたいと思います。