“癒やしの音色”被災地に響かせ – リポート 天理大学雅楽部
2024・10/9号を見る
【AI音声対象記事】
スタンダードプランで視聴できます。
石川・珠洲市で慰問公演
石川県能登地方に甚大な被害をもたらした「令和6年能登半島地震」から9カ月が経った。被災地ではインフラや仮設住宅の整備など徐々に復旧が進みつつあったが、9月21日に記録的な豪雨となり、輪島市や珠洲市で大規模な水害が発生。人的被害や一部の仮設住宅で浸水被害が出るなか、生活再建に向けたさらなる救援活動とともに、相次ぐ自然災害を経験した被災者の精神的なケアも求められている。こうしたなか、豪雨被害が発生する前の9月16日、天理大学雅楽部は、雅楽を通じて被災者の心の復興を支援しようと「能登慰問公演」を開催。特に地震被害の大きかった珠洲市に“癒やしの音色”を響かせた。
「東日本大震災」の際、被災地で慰問演奏を実施した天理大学雅楽部。元日の能登半島地震の発生後、「被災者のために何かさせていただきたい」と支援活動の形を模索し、2月と3月の「定期演奏会」で募金活動を実施。募金は日本赤十字社を通じて被災地へ寄付した。
その後、半年が経過しても被災地の復旧が進まず、被災者が疲弊する現状を知った部員たちは、能登での慰問公演を企画。現地で救援活動を継続している「珠洲ひのきしんセンター」代表の矢田嘉伸さん(51歳・手取川分教会長)の協力のもと、珠洲市の二つの特別養護老人ホームで演奏を披露することになった。
心に安らぎ与える演奏
迎えた当日、午前に「特別養護老人ホーム第三長寿園」で、午後に「特別養護老人ホーム長寿園」で、それぞれ演奏会を開いた。
「敬老の日」とあって、お祝いの飾りが施されたこの日。ステージは、管絃の平調『越殿楽』で幕を明けると、続いて謡物催馬楽『我家』を含む3曲を披露。舞楽『陵王』で部員が迫力ある演奏・演技を見せると、利用者から大きな拍手が送られた。
プログラムの最後は、雅楽調にアレンジした唱歌『ふるさと』を、利用者やスタッフと共に大合唱。会場は明るい雰囲気に包まれた。
「長寿園」生活相談員の竹平佳代さんは、普段そわそわすることが多い認知症の利用者が、雅楽の雅やかな音色に聴き入り、笑顔を見せる姿が印象に残ったという。
竹平さんは「雅楽部の皆さんの演奏が、利用者の疲弊した心に安らぎを与えてくださったと思う。演奏会に関わったすべての人たちに、心から感謝したい」と謝辞を述べた。
また、午前と午後の公演の間には、地震発生後に炊き出しの拠点になった道の駅「すずなり」でも演奏。買い物の途中に足を止めて聴き入る人の姿も見られた。
矢田さんは「学生の皆さんの、一日も早い復興を願う真心が伝わり、有り難い気持ちで胸がいっぱいになった。地震からの復旧・復興に向け、被災者を孤独にしないために、人と交わる機会を持つ重要性が高まっている。雅楽を通じて学生と現地の人がつながったことは、復興への後押しになったと思う」と語った。
川口喜一郎部長(3年)は「施設の利用者やスタッフの方々に大変喜んでいただき、感無量。何より被災地で出会った人々が、前を向いて復興への歩みを進める姿を見て、私たちのほうがエネルギーを頂いた。今回の演奏会は、人の心に安らぎを与える不思議な力が雅楽に備わっているということを再認識する機会にもなった。これからも部員一人ひとりが被災地に心をつなぐとともに、演奏を通じて人々に喜んでもらう活動を推し進めていきたい」と話した。
文=久保加津真
写真=嶋﨑 良