漢字とパソコン – 世相の奥
2024・11/6号を見る
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このごろ、漢字が書けなくなったという声を、中高年のかたがたから、よく聞く。読めはする。しかし、書こうとしても、字の形が想いだせない。あるいは、筆順がわからなくなっているという人に、よくであう。
なぜ、漢字がおぼつかなくなったのか。多くの人が、原因はワープロやパソコンにあると言う。今、書類を直筆でしたためるケースは、まずない。文書は、みな電脳機器でしあげられる。キーボードでのうちこみになっている。字はしるさない。おかげで、平仮名はともかく、漢字の形があやしくなってきた。そう説明されることが多い。
そう言えば、今は通信手段も電脳化されている。葉書や封書で連絡をとりあうことは、いちじるしくへってきた。スマホやパソコンをつうじてのメール送信が、大半をしめている。ビジネスの文書のみならず、私信でも肉筆は、ほとんど見かけない。漢字はうろおぼえという状態の原因を、そこにも読みとる人は多かろう。
だが、私はこういう状況説明を信じない。まちがっていると判断する。
読者は奇異に思われるかもしれないが、あえて書く。私は、まだ自分のパソコンをもっていない。ワープロもつかってこなかった。原稿は、すべて手書きである。原稿用紙に鉛筆で書きつけている。修正にも、消しゴムで対処してきた。今、読んでいただいているこの一文も、そうした作業の賜である。
にもかかわらず、漢字についての記憶力は、かなりおちている。想いだせなくなった字は、少なくない。おそらく、そういった認識力の最盛期は高校生のころであったろう。その後、ゆるやかにおとろえ、老境をむかえた今、低落傾向に歯止めがかからなくなった。
そう、パソコンなどつかわなくても、漢字検定めいた能力は低下する。筋力と同じように、脳の力も衰弱するのである。ようするに、老化だ。老いが私をむしばんでいる。その現実を、私は日々つきつけられている。
パソコンにたよっているおかげで、漢字が書けなくなってきた。そう口にする人たちへ、私は問いかけたい。ほんとうに、それはパソコンだけのせいですか。あなたたちは、自分のおとろえから目をそらしているのかもしれませんよ。パソコンという都合のよい犯人を、でっちあげてはいませんか、と。