洗えない服 – Well being 日々の暮らしを彩る 2
2024・12/4号を見る
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夏に仕事で必要になり、間に合わせで買ったスーツがとても便利だった。ジャケットと折り目の付いたパンツの上下。改まって見えるが、働き着だ。一日動き回れば汗みどろになる。着るたびクリーニングに出しては追いつかない。いちばん汗になるところだけ洗剤を溶かした水で部分洗いをするが、手間の割にすっきりしないような。
思いきって洗濯機に放り込んでみて感動。汚れがきれいに落ち、なおかつジャケットは型くずれせず、パンツの折り目も残っている。以降、心おきなく丸洗いをし、シーズンの最後にクリーニングに出した。
季節は移り冬服へ。冬のスーツで同じように丸洗いできるものがあれば助かるが。夏に買ったスーツのタグを頼りに、そのブランドを含む服の会社のサイトへ行くと、あった。商品名に「洗える!」とうたったスーツが。
よろこんで検索するうち疑問がわいた。「洗える!」をアピールする服の多さにだ。スーツやジャケットで「洗える!」を売りにするならわかる。クリーニングでないと難しかろうと、ふつう思うから。
でもセーターやシャツ、ブラウスは? 商品説明を読むと洗濯機不可、手洗いなら可のものも「洗える!」とアピールしている。それって、とりたてて言うほどのことでもないのでは。逆に、手ですら「洗えない」服ってあるのだろうか。
あったのだ。別のときスカートが必要になり、検索した。出てきた中に色、形とも無難で、いろいろなジャケットに合いそうなものが。購入へ進もうとして商品説明を読むと、洗濯機不可、手洗い不可、クリーニング不可……え?
書き間違いではと、現物を確かめに店舗へ行った。タグには同じことが記されて、ダメ押しのように英語で「Don’t wash.」と。強烈だ。否定の命令形である。
試着を促し近づいてきた店員さんに「洗うなと、あるんですけど」。タグを示すと、同世代と思われる店員さんが眼鏡を取り出してタグを引き寄せ、「つまりは、着るなってことでしょうか」。困惑ぎみにつぶやき、それ以上すすめてこなかった。
汚すつもりはなくても、着れば汚れる。夏ほどでないにせよ汗や皮脂はどうしたってつくし、調理する店に入れば煙、油、知らないうちの食べこぼし、汁の飛びはね。汚れをつけたままにするしかない服は、店員さんの「着るな」はないにしても「使い捨てにせよ」ということ?
服によらず何にしても洗って長く使いたい私。誤って買わないよう、商品名では「洗えない!」のほうをアピールしておいてほしい。
岸本葉子・エッセイスト