頂いた恩を誰かに送る– わたしのクローバー
辻 治美(天理教甲京分教会長夫人)
1969年生まれ
先日、あるイベントの参加費を調べていたら「ペイフォワードです」と書かれていました。
ペイフォワードとは、直訳すれば「先に払う」となりますが、自分が受けた善意をほかの誰かに渡すことを意味する言葉で、日本では「恩送り」ともいわれているそうです。つまり、このイベントは、主催者の善意で参加費は無料だけれど、参加して得た喜びや楽しさを誰かに伝えてくださいね、とのことでした。
なんて素敵な思いがこもった言葉だろうと、こんな言葉が世の中で使われていることを初めて知って、心が温かくなりました。
南の島で受けた恩
私たち夫婦には、恩返ししたい人がたくさんいます。
私たちは結婚してすぐ、ミクロネシア連邦のポンペイ島へ行きました。そこで主人は、ローカルテレビ局を立ち上げるためのボランティアとして、現地スタッフの若者にカメラ撮影や編集の技術を教えていました。
ポンペイ島の人の役に立ちたい、喜んでもらいたいとの思いで約4年間暮らし、その間に私は子供を授かりました。妊娠中はつわりがひどく、水を飲むだけでもムカムカする状態でしたが、現地の方や日本人会の方が、食べ物を運んでくれたり様子を見に来てくれたりして、いつもたすけてくださいました。出産するため日本へ帰るときには、空港まで見送りに来てくださいました。
出産後、長男を連れて島に戻ると、みんな親戚のように息子を抱いて喜んでくれました。「最高においしい離乳食だよ」と言って、カスタードクリームのように甘い、赤い皮のバナナを持ってきてくれたり、「うちにバスタブがあるから」と言ってお風呂に入れてくれたりと、新米パパママを心配して、多くの方がとても親切にしてくださいました。こんなにしていただけるくらい、私たちはこの島の役に立てたかしらと思うほどでした。
返しきれない親の恩
あるとき、主人と「優しい人たちに出会えて、本当にありがたいね」と話すうちに、「これも親のおかげやなあ」という言葉が自然と出てきました。
私たちの父親は、二人とも迫力のある顔つきで、一見怖そうに見えますが、実は情に厚く、困っている人を放っておけない性格でした。母親は二人とも、父たちの強面を補うように朗らかで、どっちの夫婦もいろんな人のお世話をし、人の幸せを心から喜んでいました。

そうやって父母のまいてきた種が、子供である私たちの代に芽を出し、ポンペイ島で安心して子育てができているに違いないと思えたのです。
南の島で受けた多くの恩。また、親からの返しきれない恩。どちらからも感じるのは、見返りを求めず相手を思う優しい心。この心を無償の愛というのでしょう。
頂いた恩を今、直接返すことはできなくても、身近な人に親切を心がけ、たすけ合うことが恩返しになるのではないかと思います。
恩人たちの笑顔を思い出し、頂いた恩を誰かに送っていく。それが子供たちの代への、幸せの種まきになると信じています。