頂いた恩を誰かに送る– わたしのクローバー
川村 優理(エッセイスト・俳人)
1958年生まれ
江戸時代から残る古民家で学芸員として働いています。鍵を開ける当番の朝は、少し早く出勤します。雨戸を開けて回るだけでも20分ほどかかる大きな家です。
材質を知って活かす
修理を重ねながら今もその美しさを保ち続けているのは、木の性質と特徴が、材として用いられる場所でそれぞれ活かされているからだと、3年半という年月をかけて家を修復した大工棟梁に教えてもらいました。
大黒柱に用いられている材はケヤキ(欅)。耐久性が高く、土間から上がる踏み台にも使われています。長い年月で木の変化が楽しめるのも特徴で、踏み台は磨かれた石のように黒く光っています。ケヤキの欠点は、堅すぎて加工が難しいこと。
座敷の柱にはヒノキ(檜)が使われています。独特の香りと美しい木目が素晴らしいのですが、欠点は傷がつきやすいこと。ただ、柔らかいので傷がついても修復はしやすいそうです。
スギ(杉)は、色が変わりやすいけれども水や湿気、虫に強いので、屋根の野地板に使われています。
アカマツ(赤松)が使われているのは、大座敷の回り廊下です。マツは熱伝導率が高くて体温が奪われにくく、床に使っても裸足で過ごせるとされます。梁にも使われていますが、虫に食われやすいようで、棟梁は修復のとき、松の梁を取り替えていました。
ヤマザクラ(山桜)が使われているのは客間の廊下です。サクラは年月が経つにつれて、ほのかにピンクに色づいていくという特徴があり、密度が高いので長持ちします。
同じ目標に向かって
私の住んでいる町は山に囲まれた盆地にあります。小さいころは製材所や、下駄や割り箸などを作る工場が多く、木の香りのする町でした。
木は身近にありましたが、おのおのの木に、それぞれの性質があり、違った役割があることは知りませんでした。
天理教の教えには、性格や能力、経験など、何もかも違う者同士が、目標に向かって心を一つに結び合い、特性を活かして精いっぱいつとめることを表す「一手一つ」という言葉があります。棟梁のお話を伺いながら、この言葉が思い浮かびました。
最近、自己肯定感という言葉をよく耳にするようになりました。自己肯定感が低い人は、自分など居ても居なくてもいいと考えがちです。逆に、自己肯定感が高すぎる人は、自分は正しく評価されていないと嘆きます。そして、それらのちょっとした勘違いが、生命に関わる大きな悲しみを引き起こしてしまうこともあります。
とはいえ、自分自身を客観的に見て正しく評価するのは、とても難しいことです。そこで、自分の強みは何だろう、自分の弱みはどこにあるのだろうと、ちょっと立ち止まって考えてみるというのはいかがでしょうか。
人と同じようにはできなくても、自分にできること、得意なことが見つかるかもしれません。そして、その特性を活かしてくれる棟梁や、同じ目標に向かって心を結び合える仲間に出会えることを願っています。