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ランドセルのヒーロー – わたしのクローバー


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野口良江(天理教栄基布教所長夫人)
1977年生まれ

集団登校の班長さん

歩いて出勤しようと少し早めに家を出た朝、天理小学校に通う子供たちの集団登校の時間と重なりました。今日は月曜日、みんな大きな荷物を持っています。

列の中に、ひときわ小さな背中が見えました。ランドセルに黄色いカバーを付けた1年生です。小さな手に大きな袋を提げて、一生懸命歩いています。そんな、あまりにかわいい後ろ姿を見守っていたくて、その小学生たちと同じルートを歩くことにしました。

横断歩道にさしかかりました。信号は赤です。黄色い旗を持って先頭を歩いていた班長さんが、後ろの子たちに声をかけて列を整えます。そのまま1年生のところへ行って、その子の大きな袋を預かると、また先頭へ戻っていきました。兄弟なのかなと思いましたが、そうではなさそうです。こんな優しいお兄ちゃんなら、きっと家を出るときから持ってあげていたはずです。

ふと、長男が小学生だったころのことを思い出しました。長男は2年生になってすぐ、野球チームに入りました。練習のある日は、野球の荷物も持って家を出ます。練習着一式にグローブ、スパイクと、野球用のリュックはいつもパンパンです。背中にランドセル、前にはリュック、そして手には大きな水筒が、野球少年の定番の登校スタイルでした。

「大丈夫」の理由

夏が近づくころ、長男の希望で、水筒をさらに大きなものに替えました。重すぎるのではと心配でしたが、「大丈夫!」と言い張って、毎回その水筒を持っていきました。

その「大丈夫」にちゃんと理由があることを知ったのは、忘れた水筒を届けに、登校班の集合場所まで行ったときでした。その水筒を同じ班の6年生が、ひょいっと長男の手から取り上げたのです。そして長男の野球リュックは、もう一人の6年生の肩に窮屈そうにぶら下がっていました。そう、こうやって毎回、二人で手分けして持ってくれていたのです。一人は野球チームの先輩で、自分の荷物もあるのにそれに加えて、なのです。

「僕がお願いしたんじゃないよ。○○くんたちが『持ってあげる』って言ってくれたんだ」

イラスト・ふじたゆい

「大丈夫」の理由は、このお兄ちゃんたちでした。ヒーローが二人もいたのです。

今は大学生の長男も、ランドセルにリュック姿の野球少年を見ると、あのころのことを思い出すそうです。

神殿の大きな屋根が見えてきました。ここで小学生から高校生までが、全員で参拝をしてから学校へ向かいます。一緒に歩いてきた班の子供たちは、神殿前で列になって一礼すると、それぞれクラスの友達のもとへと散らばっていきます。

あの1年生も、預けていた袋を「ありがとう」と受け取ると、元気に駆けていきました。その背中に「バイバーイ」と笑顔で手を振る班長さんの姿は、朝の陽に負けないくらい眩しく見えました。

私たちが住むこの世界は、優しさの無限ループの空の下に広がっています。


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