障害の有無にかかわらず楽しめる車いすスポーツの普及に努めたい NPO法人「ホスピタルフットボール協会」代表理事 糸賀亨弥さん – ようぼく百花
2025・7/30号を見る
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アメリカンフットボールをベースに、誰もが楽しめるスポーツとして考案された「車いすアメリカンフットボール」。同スポーツを中心に、アダプテッド・スポーツ(コラム参照)の普及活用に努めているのが、天理大学アメフト部チームディレクターで、NPO法人「ホスピタルフットボール協会」代表理事を務める糸賀亨弥さん(53歳・筑淀分教会ようぼく・大阪市)だ。
糸賀さんは先ごろ、アメリカ・ジョージア州内に拠点を置く、身体に障害のある学生が、障害のない仲間と同じように学校の体育や部活動に取り組む体験をつくる団体AAASPが開催した「ASPIRE Awards」で「Founder’s賞」を受賞した。
けがを負った教え子のため
ようぼく家庭に生まれた糸賀さん。「こどもおぢばがえり」や少年ひのきしん隊への参加を通じ、たすけ合いの心や、人のために尽くす喜びなどを学んだ。
天理大学ではアメフト部に所属。卒業後は社会人チームに所属しながら、同部のコーチとして選手らの指導に当たった。
同部監督を務めていた2007年、1年生部員の中村珍晴さんが試合中の事故で頸椎を損傷し、車いすが必要になった。その後、糸賀さんは中村さんを献身的に支え、中村さんの希望であった大学復学と部へのスタッフとしての復帰をサポート。中村さんは部のヘッドコーチを4年間務めたのち、現在はスポーツ心理学の研究者として活躍している
「当時は彼と彼の周りの人のために何かできることはないかと模索していた」と振り返る糸賀さん。そのさなか、車いすバスケットボールの国際大会を観戦し、「車いすの子供たちがスポーツに携われるような場をつくりたい」と考えるようになった。
糸賀さんは、車いすスポーツの現場を実際に体験するなどして「車いすアメフト」の構想を固めていく。10年、多くの協力者を得て、車いすアメフトを中心にアダプテッド・スポーツの普及活用を目指す団体「Wheelchair Football Japan」を設立。日本初となる車いすアメフトのチームが誕生した。
その後、本部海外部の協力を得て渡米し、AAASPのもとで現地の競技環境などを調査。以後、車いすを使ったアダプテッド・スポーツの体験会や講演会を通じて普及活用に奔走してきた。
「障害の有無にかかわらず誰でも気軽に参加できるスポーツがあることを知ってもらいたい。そして、『みんなが楽しく遊ぶにはどうしたらいいか』を考える心を養ってもらえたら」
天理でスポーツフェス開いて

15年には、天理大学と共催で「天理アダプテッド・スポーツフェス」を開催。電動車いすサッカーチームなど6団体が参加し、さまざまなスポーツを体験する場を持った。
18年には「ホスピタルフットボール協会」を設立。定期的にイベントを開くなど活動を続けるなか、21年にNPO法人化した。
そしてこのたび、アダプテッド・スポーツの発展に尽力したことが評価され、AAASPから同賞を受賞した。
糸賀さんは「これまでの活動を、このような形で認められて本当にうれしい。これからも、誰もが楽しめるスポーツがあることを多くの人に伝えていきたい。そして親里が、自分の可能性や気の合う仲間を見つけて笑顔で帰ってもらえるような、アダプテッド・スポーツの聖地になるよう努めたい」と話している。
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天理大学は8月31日、創立100周年記念イベントの一つとして、杣之内第1体育館を会場に第3回「天理アダプテッドスポーツフェス」(主催=同大人文学部)の開催を予定している。
コラム
アダプテッド・スポーツ
障害の有無や年齢、性別にかかわらず、誰でも参加できるよう設計されたスポーツのこと。参加者のニーズに合わせてルールや道具を柔軟に変更し、誰もがスポーツを楽しめるようにすることを目的としている。車いすアメフトのほかに、風船バレーボールやバランスボールサッカーなどがある。