備えを点検 – Well being 日々の暮らしを彩る 9
2025・8/6号を見る
【AI音声対象記事】
スタンダードプランで視聴できます。
巨大地震への注意を気象庁に呼びかけられたのは、昨夏のこと。「日頃の備えの再確認」を併せて促された。点検したところ災害用トイレはだいじょうぶそう。集合住宅でまとめて購入したものがある。食品は不充分。最低でも三日分を、とよくいわれるが、巨大地震では少なくとも一週間分用意したいそうだ。
五年間保存のきく食品を買い置くことにした。水で戻すだけでできるおにぎりは、器が要らず役立ちそう。缶入りの野菜ジュースは、栄養が偏るのを防げるかも。ようかんは何といってもエネルギー源になる。
この三つは多くの人が思いつくものらしい。探すとどの通販サイトでも品切れで、入荷予定はひと月もふた月も先。いくつものサイトを比べ、いちばん早いところで注文した。
その後「お届け予定の変更のお知らせ」のメールがたびたび来て、少しずつ先延ばし。「こんなことなら、ここで買わなくてもよかった」と思うが、どこも似たようなものだっただろう。
届いたのは、暦が春に変わる頃。「備えの再確認」を促されてから、半年以上経っていた。
後は賞味期限に気をつけないと。コロナ禍では失敗した。コロナ禍の最初の頃、お粥と経口補水液を買い置いた。あの頃は感染したら、外出を控えるべきとされたし、肺炎という体の状況からしても、買い物に行けるものではないだろう。買い物を頼む家族のいない私は、いざというときに備えて購入したのだった。
結局出番のないまま賞味期限を過ぎてしまったのは、ある面では幸いだが、もったいなかった。その分、人に渡らなかったわけで、申し訳なくもある。今度のおにぎり類は、五年間保存がきくから「うっかりして過ぎていた」みたいなことは起こりにくいと思うけど、昨夏からすでに一年。今度こそ無駄にならないようにしなければ。
一年が過ぎたところで改めて備えを点検すると、抜けている品はまだまだある。トイレと食品はなんとかなるとして、例えば災害用ラジオはない。人に話すと「なんでもかんでも自分で備えようとしなくていいんじゃない? 持ち寄れば」と言われハッとした。
そう、ひとり暮らしなのと、コロナ禍ではいざとなったら交わりを断たないといけなかったことから「自己完結」の頭になっていた。人任せで何もしないのはよくないけれど、災害用ラジオをみなで聞くくらいはイメージしていいのでは。災害用トイレをみなで購入するほどの関係を、周囲と築けているのだし。
いざというときに向けて私に欠けていたのは「共助」の発想。そう知った点検である。
岸本葉子・エッセイスト