原典を日々の拠り所に – 視点
2025・10/22号を見る
【AI音声対象記事】
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生成AIが日進月歩のスピードで進化を続けている。従来のAI(人工知能)があらかじめ定められた範囲の作業を自動化するのに対し、生成AIは学習したデータから文章や画像、音声などさまざまなコンテンツを新たに生み出すものだ。業務の効率化や新規アイデアの創出を目的として、製造業やマーケティング、教育、医療など幅広い分野で導入が図られている。
世界中で急速に普及する理由の一つに、専門知識がなくても誰もが利用できる手軽さがある。2022年に公開された、米国のOpenAIが提供する対話型AI「ChatGPT」は、その最たるものだろう。ユーザーからの指示や質問に応じて即座に必要な情報やアイデアを提供してくれる。筆者も少なからず、その恩恵に与っている一人だ。
だが利便性の裏には、思わぬ落とし穴もある。その一つが、事実に基づかない情報や誤ったデータを生成する「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象だ。確率論を用いて最適な答えを予測する生成AIは、未知の質問に対しても無理に答えようとする傾向があり、結果として情報が不十分でも“それらしい”回答を作り出すのだという。用途や目的にもよるが、利用にはまずそうしたリスクを把握しておく一方で、信頼できる情報源に当たる手間を惜しまないことが大切だろう。
翻って、お道には教えの確かな拠り所たる原典がある。元をたどれば大正14(1925)年、中山正善・二代真柱様によって教義及史料集成部が創設され、昭和2(1927)年から6年にかけて「おさしづ」、3年に註釈付きの「おふでさき」が公刊された。両者は、大正14年に天理教青年会から教会本部へ献納された天理教教庁印刷所(現・天理時報社)で印刷され、教祖50年祭および立教100年祭の両年祭記念として各教会へ下付された。
こうした背景には、教内における教義研究の機運の高まりがあった一方で、天理大学名誉教授の中島秀夫氏はその側面的理由として、大正後半期に異説を唱えて教団から離反する者があり、ご神言を公開してその正統的解釈を明らかにする必要性が生じたと指摘している(『総説天理教学』)。教えの曲解がもたらす“信仰の陥穽”に陥らないためにも、原典の公刊が急がれたのである。
今年は、原典刊行のうえに欠かせない役割を果たした教庁印刷所の設置から100年を数える。情報が錯綜する社会に生きるいま、教理の源泉である原典に日々ふれられる喜びと、教えを誤りなく伝えることの大切さを、あらためて噛み締めたい。
(春野)