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帰りたくなる場所はどこですか?- わたしのクローバー


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野口 良江(天理教栄基布教所長夫人)
1977年生まれ

魅力的な空間

「ただいまー」

玄関のドアが開くと、私が「おかえり」と迎えるひまもなく、一人、そしてまた一人と、次々とリビングに吸い込まれていく。悲しいかな、子供たちが求めているのは母の温もりよりも、リビングにデンと居座る”こたつ”の温もりなのだ。

子供といっても、上の二人は大学生で、末っ子も高校生。こたつに潜り込めるサイズではなくなっている。それでもギュウギュウになりながら、みんなでそこにいる。

そんなこたつがわが家にやって来たのは、実は昨シーズンの冬のこと。それは子供たちにとって、小さいころからの念願だった。”おばあちゃんち”にあるこたつが、とても魅力的な空間だったのだ。

いとこたちと一緒にご飯を食べ、ゲームをしたり、マンガを読んだり、スマホの画面を見せ合いながら“推し”の話で盛り上がったり。そんなわちゃわちゃとした中で、宿題を広げる子がいたり……。それぞれがそれぞれに、思い思いの時間を過ごす。それがおばあちゃんちで過ごす冬の定番だった。

いとこに子供ができてからは、その子たちも仲間入りした。それはそれは賑やかだ。そして、そんな孫やひ孫の様子を、おばあちゃんがニコニコと眺めている。4世代、一家団欒の中心にそれはある。

子供たちは言う。こたつは“実家”そのものなのだと。こたつにみんなが集まるからそう思うのか、はたまた、こたつで過ごす時間がそう思わせるのか。理由はよく分からないが、言いたいことは分かる気がした。

心地よさの裏には

そこにあるのは温もりだけではなく、「居心地の良さ」なのだ。そして、その心地よさの裏にはきっと、気付かぬうちにみんながしている心配りがある。

ちょっとずつ譲り合って座ったり、ティッシュを取ってあげたり、いつの間にか眠ってしまった人に、そっと上着をかけてあげたり。

席を立つ気配を見せると、途端にいくつか頼み事をされる。だから、初めから「お茶いる人?」と聞いて一緒に持ってきてあげたり、おやつを配ってあげたりと、誰かが誰かのために働いている。そんな優しさのもとに生まれた、文字通りあったかい空間だから、みんな引き寄せられるのだろう。

この、おばあちゃんちのこたつのように、職場が、学校が、社会が、世界が、私たちが過ごすすべての場所が、みんなにとって心地よい空間になるために必要なことは、実はそんなに難しいことではないのかもしれない。そう思えた。

イラスト・ふじたゆい

こたつがやって来てからのわが家はというと、まず、家族が同じ空間にいる時間が増えた。そして、家族そろってご飯を食べる機会が増えた。さらには、電気代がうんと下がった。掃除をするのが多少面倒になったけど、本当にいいことずくめだ。

たった一坪の、家族みんなの居場所。文字通り、わが家は“実家”になった。そのこたつを片付けるころ、長女は社会人になって家を出る。ちょっぴり寂しさも感じながら、この春を迎えることだろう。


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