書評 – 幸せへの四重奏(カルテット)
言語を超えた体験の共有
芦田京子(髙芝分教会前会長)
クラシック音楽を聴いて初めて心を揺さぶられたのは、1975年、カール・ベーム指揮ウイーン・フィル日本公演の『ブラームス交響曲第1番』を聴いた時だった。50年近くも前のことであるが、ラジオからたまたま流れてきた曲だった。クラシックをよく知らない私が徐々に引き込まれていった。曲が終わり、怒濤の拍手が鳴り響いている間、ちっぽけなラジオの前で涙を流していた。
あの時の体験は今でも忘れられない。そして、この気持ちをなんとか言葉で表現しようとするのだが、それができない。おそらく音楽とは言語を超えた体験なのだろう。だからこそ、心震える体験を共有してもらうために演奏することは、どれほど厳しいものかと思う。
本書を読んで、少しだけその厳しさを知った。考えてみれば、私も道専務、いわば信仰のプロである。しかし、これほどの厳しさを自らに課してきただろうか。些細なことで立ち止まり、後ずさりし、「これくらいはいいわ」と自分のありように目をつぶってきたのではないか。
音楽と同じように、言葉を超えた神人和楽の時を人々と共有する使命を負う者として、自分はまだまだ足りていない。だが、せめて「道専務と言えるだけのプロ意識に欠けている自分を忘れてはいけない」と、本書を読んで思った。
演奏家としての使命にひと区切りをつけ、これから次世代の音楽家の育成にシフトしていく著者は、その温かな人間性によって、音楽を通じて親神様のお望みくださる陽気世界を築いていく人材を育てていかれるのだろう。そして、これまで支えてくれたご家族、特に二人の健気なお嬢さんと共に、彼女たちが巣立つまでの短い時間を、幸せに過ごされることを願わずにいられない。
著者を取り巻くあらゆるものへの感謝と愛情に満ちた本である。
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