“役割”を生かす社会へ – 視点
天理大学では2019年度から「ホースセラピー」の取り組みを始めた。
ホースセラピーとは、障害のある人や、社会で生きるうえでの困難や課題を抱えた人に、乗馬や馬の世話(餌やり、馬房の掃除、馬の手入れ)を通じて、身体的な生活の質を高め、心の安定や成長の手助け、社会への適応を目指すもの。その効果として、脳の機能障害で歩行困難な人が一人で歩けるようになったり、ひきこもりの人が学校や会社に復帰したりするケースが報告されている。その対象は身体障害、認知症、不登校、ひきこもり、虐待などによるPTSD、出社拒否など多岐にわたる。
何らかの理由で家庭、学校、会社などに居場所をなくし、生きづらさを抱える人は多い。その人たちにとって、ホースセラピーが立ち直るきっかけになれば大きな救いになる。メンタルヘルスが今後の社会的テーマであることからも、天理大が果たす役割に期待が高まる。
これに伴い、天理大は、日本中央競馬会(JRA)で数々の名馬を育てた元調教師・角居勝彦氏をアドバイザーに迎えた。引退馬は多くの場合、乗馬用に転用される。だが国内では、その需要が少なく、けがをしたり気性が荒かったりして乗馬に不向きとなれば、ほとんどの馬が食肉などへと処理されるという。角居氏はホースセラピーを通じて、引退馬に「新たな“役割”を」と活動を推し進めている。
いま、多様性のある社会が重要視されている。それは誰もが暮らしやすい社会の構築でもある。
教祖は「人間の反故を、作らんようにしておくれ」(『稿本天理教教祖伝逸話篇』112「一に愛想」)と仰った。親神様は、人間をはじめとする生き物すべてに命を授けられる。そして、すべての人には親神様から頂いた役割や使命がある。不要な人は一人もいない。教えを拠り所に、互いを尊重して生かし合い、たすけ合う陽気ぐらしの生き方が、真の多様性社会に求められている。
(加)