特別寄稿 エピローグ 連載小説を終えて – ふたり
「ふたり」は人間らしさの源 令和2年から3年80回にわたって紡がれてきた連載小説「ふたり」が、前号(3月29日号)にて大団円を迎えた。今回、物語の最後の締めくくりとして、筆者の片山恭一氏に「ふたり」の・・・
「ふたり」は人間らしさの源 令和2年から3年80回にわたって紡がれてきた連載小説「ふたり」が、前号(3月29日号)にて大団円を迎えた。今回、物語の最後の締めくくりとして、筆者の片山恭一氏に「ふたり」の・・・
沖のほうからやって来た波が、小さな潮の泡をまき散らしながら波打ち際を進んでくる。そして途中で力尽きて、あきらめたように海に帰っていく。再び海面が盛り上がり、鈍色の波が「今度こそは」という感じで進んでく・・・
前話のあらすじ秋が近づいた満月の夜。カンとハハは一緒に海に出た。ボードにまたがり、水を切って進むカンの手は、あのときの父と同じくらい大きくなっていた。 第38話 新しく生まれ、はじまるもの 今年も棚田・・・
しばらく前から、ハハは再び海に出るようになっている。といっても波乗りはしない。ただボードに乗って海面を漂っているだけだ。夏のあいだは、日差しと暑さを避けて夕暮れや夜に出かけることが多い。ときどきカンも・・・
午後の遅い時間になっても、太陽はまだ空の上のほうにあった。二人は浜辺に腰を下ろして、輝きを増しつつある海を見ている。 「大学の図書館で借りた本に、こんなことが書いてあった」。ツツが遠い口ぶりで言った。・・・
前話のあらすじカンとツツは、お互いにいまの暮らしについて話した。ツツは、仕事のストレスから強い不安に襲われ、夜眠れなくなっていた。 第35話 夜眠れない人がいる 保苅青年は腕組みをして畑を見渡した。自・・・
夕暮れまでにはまだ時間があるはずなのに、外はすっかり暗くなっている。やがて雷が鳴り、雨が激しく降りはじめた。 カンとツツはとりあえずビョーンさんの店先に避難した。店の前は、サーフボードを乾かしたりする・・・
鉛色の海が一面に広がっていた。いまにも雨が降り出しそうな天気だが、波は穏やかで海水は温かい。それに少々雨が降ったところで、水のなかでは関係ない。子どもたちは早く海に入りたくてうずうずしている。他の子ど・・・
前話のあらすじかすかに秋の香りがする美しい晩、カンとハハは庭でお茶を飲んだ。ハハは遠い思い出を手繰り寄せるように、トトについて話しはじめた。 第32話 かならず幸せになる 夏休みの終わりにさとしがやっ・・・
かすかに秋の香りがする美しい晩、二人は庭のテーブルでお茶を飲んでいた。日曜日なので、レストランは早めに店じまいをしている。空には最初の星々が輝きはじめていた。銀色の大きな月が、黒々としたヤマモモの上に・・・
前話のあらすじ新太に取り憑いた病気が、大人たちの日常を色も音もないものにしていた。カンは、病院で人の命について考えていた。 第30話 誰のものでもない命 手術は成功した。いまのところ合併症と呼ばれる厄・・・
農場はいつになくひっそりとしていた。いま新太はベッドの上で手術を待っている。のぶ代さんと保苅青年は病院に詰めている。 省吾さんが豚に餌をやっていた。将来は新太に任せたいと思っている仕事だ。 「人間に飼・・・
どうして人間が一言主の神さまなどというものを信仰したがるのか、わかる気がした。人は生きているあいだに一度は、「この願いだけはどうしてもかなえてほしい」と思うことがある。長く生きていれば一度では済まない・・・
子どもを探していた両親は、夕暮れ間近の神社でわが子を発見した。手にキツネのお面を持っている。神社の柱に掛かっていたという。一人の幼児が一緒だった。この子については、「救出」と言ったほうがいいかもしれな・・・
そして事件が起こった。母親と一緒に「えほんの郷」を訪れた小学生の男の子がいなくなったのだ。母親は子どもを残して用事を片付けるために町へ戻った。夕方には迎えに来ると言っておいた。そのあいだ男の子は絵本を・・・
夏休みになると、日に何人かの子どもたちが「えほんの郷」を訪れるようになった。一人でやって来る子もいれば、絵本好きの親に連れてこられる子もいる。懐かしがって古い絵本を手に取る母親の傍らで、息子はスマホで・・・
保苅青年の運転する小型トラックが農場に帰ってきた。荷台には鶏糞が積まれている。カンが卵を仕入れている養鶏場からもらってきたものだ。豆腐屋やスーパーマーケットからもらってきた豆腐のカスや米ぬかなどを加え・・・
前話のあらすじ夏休みが近づき、ビョーンさんのスクールは忙しくなっていた。カンも、ときどき子どもたちを連れてボードで少し沖に出る。それは、あの夏の日を思い出させる光景だった。 第23話「海はもう一つの地・・・
夏休みが近づくと、ビョーンさんの店を訪れる客の数が増えてくる。スクールのほうも忙しくなる。はじめてサーフィンを習うという人のなかには、若い女性や家族連れが多かった。ビョーンさんに頼まれて、カンもときど・・・
カンのレストランに保苅青年とのぶ代さん、ハハの四人が集まった。外は雨が降っている。店のなかには三拍子のピアノ曲が流れている。恒例の夕食会だが、いつものように話ははずまなかった。雨のせいばかりではないだ・・・