天理時報2022年7月27日号8面
【第20話 悲しみを糧として – ふたり】ソーシャルワーカーの資格をもつビョーンさんの妹は、ドイツで夫や恋人からの暴力に苦しむ女性たちの支援をしている。ビョーンさんもいくらか事情に通じているようなので、何か助言を得られるかもしれない。カンと母親がビョーンさんのところへ行っているあいだ、店に残ったさとしに、ハハはパンの焼き方を教えることにした。「パン生地をこねることをミキシングっていうの。カンによると音楽の録音などでも使う言葉らしいんだけど。ふっくらしたパンをつくるためには水分を多くして高速でミキシングする。しっかりした噛みごたえのあるパンをつくりたいときは、硬い生地を低速でミキシングする。面白いでしょう?」さとしは興味深そうに聞いている。実際にさせてみると、なかなか上手に小麦粉をこねはじめた。将来は有能なパン屋になるかもしれない。「人でも動物でも、生きることの基本は食べることよね。でも悲しいことやつらいことがあると、何を食べてもおいしくない。食欲もなくなる。そういうときは誰かにおいしいものを作ってあげるの。自分が食べられないときは、他の人に食べてもらう。それが生きる力になる」トトが亡くなって、ツツが店にやって来たときのことを思い出した。あのときもハハは同じようなことを言っていた。「わたしの夫は、カンがさとし君ぐらいのときに亡くなったの。海の事故だった」さとしは、ちょっと驚いたような顔をした。「亡くなってしばらくは、主人が帰ってきた夢をよく見たわ。いま帰ったよって。たしかにあの人の声を聞いているの」パン生地を丸めていた手を休めて、ハハはぼんやりと窓の外を見た。「目が覚めたときの気分は最悪で、大切な人がいないという事実に打ちのめされた。きっと人間は一人では生きられない動物だから、大きな悲しみや苦しみを抱え込むのね」彼女は言葉をおいて、さとしに微笑みかけた。「いまでも聞こえるのよ。主人の声。ただいまって。わたしもおかえりって返事をするの」この深い傷を背負って生きてきた女性は、いまさとしにパンの焼き方を教えている。さとしの母親も、さとし自身も、やはり深い傷を負っている。いつか彼らもきっと、誰かにパンの焼き方を教えることができるようになるだろう。悲しみを糧としてパンが生まれ、そのパンが別の悲しみを癒やしていく。作/片山恭一 画/リン, 【親里の高校生 夏の大舞台へ】夏の大舞台に挑む、全日制の天理高、教校学園高(左)と、定時制の天理高第2部の各クラブの選手たち7月下旬から8月下旬にかけて「全国高校総合体育大会」(インターハイ)と「全国高校定時制通信制体育大会」が各地で開催される。ここでは、夏の大舞台に挑戦する管内高校のクラブを紹介する。(7月20日記)全国高校総合体育大会7月23日から8月23日にかけて四国4県を中心に開催されるインターハイ。今年は、天理高校柔道部男子、同部女子、バレーボール部男子、ホッケー部男子、同部女子、卓球部男子、天理教校学園高校レスリング部の5クラブが個人・団体の部に出場する。昨年の団体戦で3位入賞した天理高柔道部男子。全国優勝を目指して稽古を続けるなか、県予選では、団体戦、個人戦の全7階級を制した。星尾和希主将(3年)は「日々の練習では、体格の大きな全国の強豪に負けないよう、基本の徹底を意識してきた。昨年の悔しさを糧に、チーム一丸となって全国制覇を成し遂げたい」と語る。◇8年ぶりとなる団体戦の出場を決めた教校学園高レスリング部。個人戦にも2選手が出場する。黑岩香具楽主将(同)は「一日一日の練習を大切にして、出場するからには優勝を目指したい」と抱負を述べた。全国高校定時制通信制体育大会働きながら学ぶ高校生のスポーツの祭典「全国高校定時制通信制体育大会」は、7月26日から8月19日にかけて東京都を中心に開催される。今大会には、天理高校第2部から8クラブが出場する。男女合わせて12種目に出場する陸上部は、「上位入賞」を目標に掲げ、練習時間の短い平日は走り込みやインターバル走を中心に、休日にはリレーや「走幅跳」「砲丸投」など各専門種目のトレーニングを積んできた。藤原陽世主将(4年)は「個人種目の出場が多いので、仲間同士でも競い合い、元気に楽しくプレーすることを心がけたい」と語った。◇昨年、連覇記録を「14」に伸ばした野球部。新チーム発足当初から、丹念に基礎練習を重ねている。さらに“守り勝つ”戦いができるよう守備力も鍛えてきた。有本義人主将(同)は「誰が見ても日本一にふさわしいと思ってもらえるようなプレーを心がけ、連覇記録を伸ばしたい。応援してくださる人に喜んでもらえるような試合ができたら」と話している。