天理時報2022年7月13日号8面
【第18話 人間はおかしな生き物 – ふたり】のぶ代さんが作ったソーセージやベーコン、省吾さんが育てた豚の肉、それに新鮮な野菜を仕入れて帰ろうとしていると、農場の傍らを流れる小川の土手に新太がしゃがみ込んで、熱心に川のなかを覗き込んでいる。カンは食材を車に積んでから、そっと近づいていった。子どもは気づいて振り向いた。指さしたほうを見ると、川岸の湿った砂のなかに黒っぽいものが顔を出している。貝のようだった。どうやら砂にもぐっていこうとしているらしい。その様子を新太はじっと見ている。完全に見えなくなると、彼は土手から川岸に降り、両手で湿った砂を掘りはじめた。やがて砂に隠れた貝が姿を現した。それを手のひらに載せて見ている。細長い二枚貝は、新太の手の上でじっとしている。子どもは貝が動き出すのを待っている。カンが新太の手から貝をつまみ上げた。尖ったほうを下にして元の湿った砂に置くと、貝はゆっくり砂のなかにもぐりはじめた。ほとんど動いているのがわからないくらいのスピードだ。「逃げる?」。子どもは心配そうにたずねた。カンは「大丈夫」というふうに首を振った。「イシガイか」省吾さんだった。豚に餌をやってきたところらしい。袋に入った飼料のようなものを抱えている。それを足元に置くと、二人が座っている横に腰を下ろした。しばらく新太の様子を見ていた省吾さんがカンに歳をたずねた。「早いもんだな。おやじさんに連れられてここへ来たときは、まだ小学生くらいだったろう?」省吾さんは幼いカンの姿を探し求めるように、川岸にしゃがみ込んでイシガイを観察している新太のほうへ目を向けた。「あいつも、あっという間に大きくなるんだろうな。あと十年、二十年……そのころには、おれはもういないだろう」やがて新太が川から上がってきた。手にイシガイを持っている。どうやら逃がしてやるつもりはないらしい。「誰だっていつかは死ぬ。それがわかっていながら、最後までジタバタと生きるのが人間だ。若い連中や自分がいなくなった世界のことを考えたりしてな。おかしな生き物だ、人間というのは」二人はしばらく小川のせせらぎに耳を澄ますようだった。, 【西日本大会6年ぶりV – 天理大学バスケットボール部男子】天理大バスケットボール部男子は、6月5日から大阪市のエディオンアリーナ大阪などで行われた「西日本学生バスケットボール選手権大会」に出場し、6年ぶりの優勝を果たした。今年2月、同部を過去最高のインカレ3位に導いた二杉茂監督が亡くなり、今大会では左胸に喪章を着けて試合に臨んだ。トーナメントを勝ち上がり、決勝で京都産業大学に56‐53で勝利し、4回目の優勝に輝いた。なお、最優秀選手賞に志冨田温大選手(4年)が、優秀選手賞に石井良樹選手(同)が、最優秀監督賞に岡田伸二監督が選ばれた。, 【「全日本空手道体重別」組手初代王者に – 天理大空手道部 橋本大夢選手】天理大学空手道部の橋本大夢選手(4年)は6月11、12の両日、群馬県高崎市の高崎アリーナで開催された第1回「全日本空手道体重別選手権大会」に出場、男子個人組手競技60キロ級で優勝に輝いた。父が会長・師範を務める道場で3歳から空手を始めた。空手の強豪・兵庫工業高校へ進むと、3年時の県大会個人組手競技で3位入賞の成績を収めた。卒業後はスポーツ指導者を志して天理大へ。1年時の「国民体育大会」個人組手競技で5位に入ると、3年時の「近畿地区空手道選手権大会」では3位入賞を果たす。今年3月、全日本空手道連盟主催の「2022年シニア強化選手選考会」に出場。全国トップレベルの選手が集まったトーナメント戦を勝ち進み、準優勝。この結果を受け、ナショナルチームの一員に選出された。橋本選手は、相手に反撃の隙を与えない連続技で素早い「刻み突き」を差し込む攻撃型の戦法を得意とする。一方で、守りに入るとペースを崩してしまうため、練習では組手を繰り返して攻めの姿勢を保つことを意識してきた。国内初となる体重別選手権は、東京2020オリンピックのレガシー大会として新設されたもの。各地区協議会の代表や実業団、全空連推薦選手に加え、五輪代表の4選手が出場。組手競技は、男子・女子ともに5階級に分かれ、東京五輪の試合方式が採用された。「勝ちにこだわらず、空手を楽しむことを優先し、自分のペースを最後まで貫こう」と大会に臨んだ橋本選手。グループリーグでは、得意の連続技で対戦相手を圧倒していく。なかでも、東京五輪日本代表の佐合尚人選手との対戦では、2‐2の引き分けに持ち込み、先取勝ち(試合で先にポイントを取った選手が勝利)で大金星を挙げた。5戦全勝でグループリーグを勝ち抜くと、トーナメント準決勝では、3月の強化選手選考会で敗れた相手に5‐3で勝利し、決勝戦へ駒を進めた。決勝では、開始直後から得意技の「刻み突き」で立て続けに4ポイントを奪ったが、反撃を受けて同点に追いつかれる。その後、最後まで積極的に技を繰り出し続けて試合終了。4‐4の先取勝ちで橋本選手が勝利し、初代王者に輝いた。橋本選手は「全国大会で結果を残せて素直にうれしい。両親や監督、チームメートなど、たくさんの方々の支えに感謝したい。これからも、空手だけでなく人間として成長していけるよう精進していきたい」と話した。なお橋本選手は、11月に開催される「全日本大学空手道選手権大会」に出場する予定。