天理時報2022年6月22日号8面
【第16話 未来へ運ぶ容れ物 – ふたり】カンは夜明け前の海に出かける。波乗りをはじめたころからの習慣だ。いい波は、朝の早い時間帯に立つことが多い。暗い岸辺には、たくさんの灯がきらめいている。そのなかに自分を迎え入れてくれるものは一つもない。そう思っていた。あのころカンは波の上で一人、孤独と闘っていたのかもしれない。いつか打ち負かしてやろうと思いながら。だが打ち負かすか打ち負かされるかは、本人にもわからなかったはずだ。ときに海は荒々しく凶暴で、命にたいして牙を剥いてくる。自然はけっしてやさしいものでも親切なものでもない。ある朝のことだ。前方から大きな波がやって来た。カンは両手で水を掻いて波に向かっていった。タイミングをとらえて立ち上がった。ボードは波の上を走りはじめた。岸に近づくにつれて、波はどんどん大きくなっていく。不意にサーフボードは馬がいななくように立ち上がった。あの子は海に落ち、馬は波の上を走りつづけた。そのときだ、カンが声を出して笑ったのは。朝の光を浴びて、水のなかで長いあいだ笑い続けていた。不思議な光景だった。なぜあんなに笑ったのかわからない。ボードから落ちたときに、自分が解き放される気がしたのだろうか。そして何かつかんだのだろうか。「世界が目を覚ます前に、海を独り占めするんだ」トトはよくそんなことを言って、早朝の波乗りに出かけた。カンが夜明け前の海にやって来るのも、海を独り占めするためかもしれない。彼だけの海でトトを感じるためかもしれない。世界が目を覚ます前の海で、いまも二人は波をつかまえようとしている。「トトと暮らした12年間は、長かったようでもあるし、短かったようでもある。一瞬のことにも、永遠のようにも思える」ハハにとって思い出とは、トトを未来へ運ぶ容れ物みたいなものだ。記憶にはいろんなものが入っている。その多くは人に伝えることができない。心の奥にしまわれた器のなかで、大切な人は生きつづける。だからどんなに深い悲しみも、少しずつ音色を変えていく。ゆっくりと、まるで小さな種子から芽が出て、大きな樹木に育っていくように。ハハはたくさんの思い出とともに、トトを現在へ連れてきた。それは本人にとっては、生きることがかなわなかった未来だ。人間にとって死とは、愛する人によって思い出される未来なのかもしれない。カンもハハと同じように、トトを未来へ運びつづけている。, 【“関東の雄”慶應大に快勝 – 天理大ラグビー部】新チームとなった天理大ラグビー部は、”関東の雄”慶應大ラグビー部に36‐19で快勝した(6月5日、親里ラグビー場で)天理大学ラグビー部は6月5日、親里ラグビー場で開催された「2022ラグビースプリングカーニバルIN奈良」(主催=関西ラグビーフットボール協会)で、”関東の雄”慶應義塾大学と対戦。36‐19で勝利した。一昨年の「全国大学ラグビーフットボール選手権大会」で初優勝を果たした天理大。しかし、昨年は「ムロオ関西大学ラグビーAリーグ」での連覇を逃すと、大学選手権では関東の強豪・明治大学に4回戦で敗れ、全国16強でシーズンを終えた。日本一に向けて再始動した新チームは、照井悠一郎キャプテン(4年)のもと、今春新たに42人の部員が加わり、総勢158人でスタートを切った。今季初の”関東勢”との一戦では、早稲田大学、明治大と並ぶ関東大学ラグビーの強豪「早明慶」の一角である慶應大を親里に迎えた。慶應大ラグビー部は、日本のラグビーチームのルーツとして知られる伝統校で、大学選手権3度の優勝の実績を持ち、「魂のタックル」と形容される堅守を特徴とする。当日、親里ラグビー場には1,122人のラグビーファンが詰めかけた。慶應大のキックオフで試合が始まると、前半11分に先制トライを許す。天理大は27分、CTBマナセ・ハビリ選手(3年)が相手のパスミスのボールをハーフウエーライン付近で拾うと、約50mの独走トライを決めて逆転。その後は互いにトライを奪い合い、14‐12で前半を折り返した。後半開始早々、相手ボールを奪取した天理大は、ディフェンスの隙をついてボールを展開し、WTB豊田祐樹選手(同)がトライ。その後も2トライ、1ペナルティーゴールで得点を重ねると、堅いディフェンスで慶應大の攻撃を抑え、36‐19で快勝した。小松節夫監督(59歳)は「ディフェンス面での収穫はあったが、スクラムなどのセットプレーでは相手チームの動きに対応できず、アタックを継続できなかった。この試合で見つかった課題の改善に努め、来週、再来週と続く”関東勢”との試合でセットプレーの対応を確認しながら、チーム力を向上させていきたい」と話した。照井キャプテンは「関東のチームに勝てて自信になった。昨シーズン逃した関西リーグ優勝と大学日本一を目指して、一試合一試合いい準備をして、天理らしいチームに仕上げていきたい」と意気込みを語った。◇なお、天理大は現在「関西大学リーグ春季トーナメント」に出場中。12日に行われた3回戦では近畿大学を相手に43‐19で勝利。7月3日の1・2位決定戦で、京都産業大学と立命館大学の勝者と対戦する。親里ラグビー場で行われた天理大と慶應大の試合の動画ニュースhttps://youtu.be/kwC9yEN6yTY