天理時報2021年11月17日号8面
立教184年「全国社友大会」講演ダイジェスト天理での青春時代芸能人生に活きる既報の通り、道友社の立教184年「全国社友大会」では、「笑うて泣いまた笑て――妹尾和夫のしゃべくりエッセー』の出版記念として、著者の妹尾和夫氏が「わたしと天理芸能人生を支えてくれたもの」と題して講演した。その内容をダイジェストで紹介する。妹尾和夫氏僕は昭和38年に天理中学校に入学し、45年に天理高校を卒業するまで丸6年間、天理で生活しました。それが、芸能界で仕事をする中での、すべての基本になっています。いい大人との出会い天理中学、天理高校で出会った先生方の影響もあり、教師になって天理高校へ戻るつもりでした。ところが、僕の高校時代は学生運動が盛んな時代。生徒会長をやっていた僕は、勉強もせずに学生運動のまね事ばかりしていました。そんなある日、当時の校長であった中山睦信先生から呼び出しを受けました。覚悟して校長室へ行くと、中山先生が「食べるか」とお菓子を勧めて、「君、元気ええらしいやんか。元気なのはいいことやから、ほどほどにな」と言われました。多感な時期に正義感を振りかざして突っ走っていた僕を、温かく包んでくださったいい大人との出会いは生涯の財産となりました。僕なりの“定め”先ごろ亡くなられた落語家の笑福亭仁鶴師匠との素敵な出会いがありました。2年ほど前、僕が司会を務めていた番組のレギュラーコメンテーターとして、仁鶴師匠が出演されることになりました。天理高校時代に北寮で深夜ラジオを聴いていた憧れの人と一緒に仕事ができるここで、天理の教えが活きてくるんです。ゴマすりと思われてもいいから、ひのきしんの態度で喜んでもらおうと、僕なりの”心定め”をしました。朝、仁鶴師匠がテレビ局に来られると、僕は局の喫茶室へ行ってアイスコーヒーを作ってもらい、楽屋へ持っていきました。仁鶴師匠は最初「なんで君が?」という顔をされましたが、続けるうちに「頼むわ」と言ってもらえるようになりました。それから半年が経ったころ、ゴルフや食事に連れていってもらったり、ご自宅へお邪魔したりと、親しくお付き合いをさせていただきました。仕事の現場では何か「させていただく」ことを心がけています。「メーン司会者は、そんなことしませんよ」と言われることもありますが、それはすべて天理で身につけたひのきしんの態度、お道の精神が元になっています。70歳を前にした今も、天理中学、天理高校で培ったことを元に、芸能の仕事で忙しくさせてもらっています。体が動く限り頑張りたいと思います。記念講演のダイジェスト映像を、下記QRコードからご覧いただけます。【せのお・かずお】1951年大阪生まれ。関西を拠点に、俳優・舞台演出家・ラジオパーソナリティーとして活躍。鹿追分教会ようぼく。今号の発行日が、妹尾さんの70歳の誕生日です。文芸連載小説ふたり星の降る夜は作/片山恭画/リン第40話わたしたちは人で二人その日、わたしたちはハハの運転する車で海にでかけた。いつも散歩する砂浜ではなく、波乗りをする連中が好む海岸、トトがいうところの「ビーチ」だ。「海の季節は地上よりも三ヶ月くらい遅れているんだよ」。海辺の道を走りながらハハは言った。「地上が秋なら海は夏。ということは、いまも海では夏がつづいているってことだね」十月だというのに、たくさんの若者が波乗りを楽しんでいた。黒いビニールのスーツを着ている者もいるし、パンツだけの人もいる。ハハとカンは海には入らずに、砂浜からサーファーたちを見ていた。波乗りに興味のないわたしは海と空を見つめた。それこそ穴があくほど見つめた。ひょっとして穴の向こうにトトが見えるかもしれない。「いつか二人でまたサーフィンをはじめたいな」。遠いハハの声が言った。「トトが感じていた海を、カンと一緒に感じていたいから」昼は砂浜に広げたシートの上でパンを食べた。二人で焼いたパンだ。その匂いのせいかもしれない。少しうとうとして夢を見た。夢のなかにトトとハハが出てきた。わたしが知っているどんな二人よりも若い。若いハハが赤ん坊を抱いていそれを横から、これまた若いトトが覗き込んでいる。彼らは赤ん坊にうっとりと見とれている。わたしは自分が見つめられているようで、ちょっとくすぐったい気持ちになった。ありえないほど若い二人のまなざしが、生まれて間もない赤ん坊にやさしく注がれて、その子の未来がひらけていくことを願っている。やがて若い母親は赤ん坊をやさしく揺すりながらハミングをはじめた。小さく澄んだ声で奏でられるメロディーを聴いているうちに、なぜか懐かしい気分になった。心地のいいものがパン生地のように膨らんで、何かがわたしのなかで甦ってくる。長く忘れていたことが、少しずつ明らかになってくる。ああ、そうだ。この声を聞いてわたしは大きくなったのだ。目が覚めると、いつものカンとハハがいた。自分がどこにいるのかわからなかった。犬だという自覚もなかった。ハハがひとりごとみたいに言った。「トトが生きていたころは、わたしたちは二人で一人だと思っていた。トトがいなくなって、いまは一人でも二人と感じる。トトがわたしを生きているってことかな」サユリさんが話していた倍音のことだ、とわたしは思った。ハハの命の音色のなかには、トトの命の音色も含まれている。カンの命にはどんな音色が含まれているのだろう。これからどんな音色やメロディーを奏でるのだろう。長生きをする必要がありそうだ。犬の寿命は人間よりもずいぶん短く設定されているみたいだから。(第1部終)「ふたり」のバックナンバーを道友社HPで公開中。登場人物の相関図や作者のプロフィールも閲覧することができます。下記QRコードからアクセスしてください。