天理時報2021年10月20日号8面
還暦土俵入り」披露第63代横綱旭富士伊勢ヶ濱親方第63代横綱旭富士の伊勢ヶ濱親方(61歳・明愛分教会ようぼく)は3日、東京・両国国技館で史上11人目となる「還暦土俵入り」(コラム参照)を行った。太刀持ち露払いには、弟子である元横綱日馬富士のダワーニャム・ビャンバドルジ氏(37歳・同)と元関脇安美錦の安治川親方(43歳・同)を従え、特別な赤い綱を締めて、不知火型の土俵入りを披露した。昭和63年1月、横綱千代の富士を破って幕内初優勝を果たし、平成2年の九月場所後、第63代横綱に昇進。翌3年の五月場所で幕内優勝するなど活躍し、4年に現役引退。生涯戦績575勝324敗優勝は4度を数えた。同年、安治川部屋を継承。部屋は三月場所の際に明愛分教会(森田忠明会長・大阪市東成区)を宿舎にしていたことから、部屋の力士らと共に毎年、本部神殿で参拝して別席を運び、19年、おさづけの理を拝戴した。同年、年寄「伊勢ヶ濱」を襲名し、伊勢ヶ濱部屋へと改称。同部屋からは日馬富士、照ノ富士の二人の横綱を筆頭に、数の名力士を輩出している。ようぼく3氏で土俵へ昨年5月に還暦土俵入りを予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期に。その間も「みすぼらしい体は見せられない」と、トレーニングを続けてきたという。当日は、弟子二人と共に、ようぼく3氏で土俵へ。自身の横綱時代と同じく不知火型の土俵入りに臨み、四股を踏んだ後、両手を左右に大きく開きながら豪快にせり上がると、客席から盛大な拍手が送られた。土俵入りに先立ち、あいさつした伊勢ヶ濱親方は「この土俵入りを新たなスタートとして、強い力士、関取を育成していけるよう、これからも相撲道に邁「進していく」と決意を述べた。伊勢ヶ濱親方は、本紙の取材に対して「真柱様をはじめ、教友の皆さまに応援していただき、それを糧に、これまで相撲に励むことができた。少しでも強くなるよう部屋の力士たち、ともどもに精進していくので、これからの伊勢ヶ濱部屋に大いにご期待いただきたい」と語った。伊勢ヶ濱親方は、還暦の土俵入りを披露した(3日、両国国技館で)還暦土俵入りに先立ち、トークショーを行う伊勢ヶ濱親方(写真中央)。右は元横綱日馬富士のダワーニャム・ビャンバドルジ氏、左は横綱照ノ富士還暦土俵入り現役時代の最高位が横綱の元力士が、60歳(還暦)を迎えた際に、長寿の祝いとして行われる特別な横綱土俵入り。特別に作られた赤い綱を使用する。QRコードから、過去に伊勢ヶ濱親方を取り上げた『天理時報』と『すきっと』の記事をご覧いただけます。文芸連載小說ふたり星の降る夜は作/片山恭一画/リン第37話身体の奥のかすかなゆらぎその夜、カンはベッドのなかで泣いていた。トトが亡くなってからはじめてのことだった。嗚咽を押し殺して、あの子は長いあいだ泣きつづけた。彼はトトのために泣いていた。ハハのために泣いていた。そして自分のために泣いていた。わたしはあの子の頬を伝う涙を舐めてやった。トトが愛した海の味がした。いつかハハは電話で誰かに話していた。「せめてあの人の死を看取りたかった。わたしの腕のなかで息を引き取ってくれたらって..亡くなっていく人にとっては、どっちでもいいのかもしれないけど。勝手なものね、生きている自分の都合ばかり考えている」一つひとつの命もあるだろう。また別の命もある。いつかトトは言っていた。「命というのは波みたいなものかもしれないな。波は小さくて目には見えない。でも心を澄ますと、身体の奥にかすかなゆらぎを感じる。われわれみんな波に運ばれる命なんだ」トトは自分の命から別の命へ移動したのかもしれない。トトによれば命とは波みたいなものだから。ハハの悲しみのなかにトトがいる。彼女の悲しそうな顔に、-の面影が浮かんでいる。だからハハの顔を見れば、わたしたちはいつだってトトに会えるというわけだ。トトは一つの命を脱ぎ捨てて、もう一つの命を生きはじめているのかもしれない。ツツたちが町を離れる日が近づいたころ、ハハはサユリさんに電話をかけた。「ワインを飲みにこない?たくさんあって、とても一人じゃ飲みきれない」「よろこんで」とサユリさんは言った。ワインを飲みながら、ハハは何を食べても味がしないと言った。「きっとあの人がいないせいね」なるほど。ハハにとって、トのいない世界はおいしくないのだ。犬のわたしにはわからない理屈だが、そういうこともあるのだろう。サユリさんは音楽の話をした。ピアノで一つの音を鳴らすと、それ以外の音も同時に鳴っている。倍音というらしい。2倍、3倍、4倍、5倍・・・・・・と無数の倍音が含まれていて、あまり高い倍音は人間の耳には聴こえない。倍音の含まれ方の違いが音色の違いになる。トトとサユリさんは同じことを言っているのではないだろうか。どの命も波や倍音として重なっている。いまやトトの命の音は普通の耳には聴こえないものになったけれど、いつもハハやカンの命とともに鳴っていて、彼らの命の音色をつくり出している。季節が進んでリンゴや蜜柑が熟すころに、ハハの世界も再びおいしくなればいいなと思った。「ふたり」のバックナンバーを道友社HPで公開中。登場人物の相関図や作者のプロフィールも閲覧することができます。下記QRコードからアクセスしてください。