天理時報2021年10月6日号8面
天理時報創刊90年記念懸賞エッセ入選作品テーマ「かしもの・かりもの」を心に坂田鏡介83歳・本杉安分教会長・東京都足立区もう少しお借りいたしますのっけから尾籠な話であるが、トイレでお通じがあると、拍手を打ってお礼を申し上げている。あるときから、小便の際も同じようにお礼をするようになった。一時期、尿のことで悩んだからである。平成23年、左腎臓にがんが見つかった。夏の終わりから背中が痛みだしたので、整形外科で診てもらった。レントゲンを撮ったが、異常は見つからない。帰り際に「一度、内科の先生にも診てもらったら」と勧められた。そのひと言が妙に心に引かかった。持病の狭心症で通院していたので、循環器科の診察時にその話をした。先生は「専門外ですが、念のためCTを撮ってみましょうか」とすぐに手配してくれた。CT撮影を終え、しばらくして診察室に入った。結果については何も説明がなく、「専門の病院へ行ってください。なるべく早いほうがいいですね」と言われ、これはただごとではないと思った。その足で紹介された病院へ向かったところ、担当医は60代半ばのK先生。先ほどのCT画像を見てもらうと、「うーん」と言ったきり無言。私は、うすうす気がついていたので、自分から「がんですか?」と聞いた。先生は、私に画像を見せながら「これが腎臓で、ここに鶏卵くらいの塊がある。これが、がんです」と説明してくださった。自分から聞いたので、気分的には楽だった。「腎臓は左右に1個ずつあるから、一つ取っても「大丈夫」と、先生は事もなげに言った。それから数日通って、血液検査や再度のCT撮影、いろいろな検査を経て、手術の日が決まった。左腎臓全摘出手術は、3時間ほどで無事に終了した。術後の経過も良く、1週間ほどで退院することができた。あとで分かったことだが、K先生は熟練者で、わざわざ他県から診察を受けに来る人がいるほどの腕前だったのである。振り返ると、事は良いほうへ良いほうへと進んだ。これは親神様・教祖のお導きに相違ないと確信した。私たちの身体は親神様からのかりものであり、周囲のあらゆる物はお与えであると教えられる。腎臓はいったん悪くなると、元に戻らないという。その働きは、血液を濾過し、老廃物や塩分を尿として排泄する。血液は人の誠真実と聞いたことがある。私は、人の誠真実を真摯に受けとめて感謝する心が足りなかったと反省した。お道は「感謝、慎み、たすけあい」をキーワードに、陽気ぐらし世界を目指している。私はその意味合いを、今回の節を通じて強く心に刻むとともに、一層の成人を誓って、親神様にこう申し上げた。「長い間、左腎臓をお貸しくださり、ありがとうございました。命ある限り、陽気ぐらしを目指して歩んでまいります。それまで右腎臓は、もう少しお借りい「たします」(要旨)手嶋龍一のグローバルアイ6対中国包囲網の時代この年の秋は「海洋強国」を呼号する中国を封じる包囲網が相次いで出現した後世の歴史に2021年の9月は、そう記されることになるだろう。まず9月なかば、アメリカ・イギリス・オーストラリアは、新たな三国の軍事同盟「AUKUS」を結成した。その狙いは、海洋強国、中国が、南シナ海の島々は自国領だと言い張り、太平洋全域に迫り出そうとするのを阻む軍事的連携にほかならない。「AUKUS」同盟の象徴的なプロジェクトとして、三国は8隻の原子力潜水艦を建造し、オーストラリア海軍に配備する計画を明らかにした。この決定を受けて、オーストラリア政府は、フランスに発注していた通常型原子力潜水艦の建造計画を破棄すると通告し、フランス政府を激怒させてしまった。それだけ中国の脅威が差し迫っていると判断したのだろう。新しい三国同盟の結成を見届けた中国は、TPP(環太平洋連携協定)への参加を表明した。アジア・太平洋地域にモノとヒトの自由な交流を実現するTPPに名乗りをあげたのである。トランプ政権が離脱したため「アメリカなきTPP」として船出した隙を衝いて、「中国を主役とするTPP」を目指そうというのだろう。最近の中国の戦略眼の冴えを窺わせて興味深い。だが、東アジアに持ちあがった国際政治のドラマは、これで終わらなかった。今度は台湾がTPPへ参加する意向を明らかにした。中国が先にTPPのメンバーになってしまえば、台湾が加わる芽は摘まれてしまう。新規の加入を認めるには、全会一致を原則とするからだ。日本とアメリカは、台湾のTPP加入を支持して対中国包囲網としたい意向だ。だが、中国の参加を阻止しても、「アメリカなきTPP」では対中国戦略には大きな穴があいたままになってしまう。バイデン大統領は、先の大統領選で錆びついた工業地帯の白人労働者の助けを借りて辛くも当選した。それだけにTPPに反対する彼らの票の行方が気がかりなのだろう。日本の新しい総理は、「TPPに復帰してアジアに軸足を」とアメリカを説得する重い責務を担っている。