天理時報2021年9月26日号8面
講演ダイジェスト天理大おやさと研究所公開教学講座「信仰に生きる『逸話篇』に学ぶ(7)」から生まれ替わりを経て陽気ぐらし世界へ近づく永尾教昭おやさと研究所長天理大学おやさと研究所(永尾教昭所長)は現在「2021年度公開教学講座―信仰に生きる『逸話篇』に学ぶ(7)」をオンラインで開催している。9月1日に配信が始まった第1回は、永尾所長が『稿本天理教教祖伝逸話篇』110「魂は生き通し」をテーマに講演。ここでは、その内容をダイジェストで紹介する。人間は「心」「体」「魂」の三つの要素で構成されていると思う。「おさしづ」に「人間というものは、身はかりもの、心一つが我がのもの」(明治22年2月14日)という一節がある。体は神様からの借り物で、心は自分のものということだ。ここでは、心が所有物であり、「我」が所有者になる。では「我」とは、いったい何なのか。これが人間の根源的なもの、いわば「魂」なのではないかと思う。原典の中で、教理として魂を説かれているのは「高山にくらしているもたにそこにくらしているもをなしたまひい」(おふでさき十三号45)というお歌の一例のみである。解釈はさまざまだが、教祖は、このお歌を通じて、個人の能力や環境、あるいは生い立ちによって社会的立場に違いはあれど、人間の本質的なものに貴賤の差がないことを、はっきりお教えになっていると思う。魂と関わりの深い「生まれ替わり」については、原典にも用例が多数見られる。特定の人物の生まれ替わりについて、「おふでさき」「おさしづ」で具体的に説かれる一方で、「後々誰の生まれ更わり言えば世界大変。(中略)誰がどう、彼がどう、とは言わん」(おさしづ明治3年4月2日)と、生まれ替わりは人間が本来知るべきことではないと示唆されている。魂は生き通しでありたすけのうえに働くさて、逸話篇110「魂は生き通し」では、教祖が、すでにお出直しになった秀司様やこかん様とお話をされている場面が描かれている。この逸話を、どう悟ればいいのか。『稿本天理教教祖伝』によれば、秀司様がお出直しになった直後に、教祖は、秀司様に代わって「私は、何処へも行きません。魂は親に抱かれて居るで。古着を脱ぎ捨てたまでやで」と仰せられた。そのうえで「元初まりの道具衆の魂は、いついつ迄も元のやしきに留まり生れ更り出更りして、一列たすけの上に働いて居られる」と記されている。教祖は、元初まりの道具である魂は、これからも元の屋敷に留まり、いまも世界たすけに働いてくださっていることを、お教えになったのではないか。お道では魂は生き通しであり、また新たな体を借りて、この世に帰ってくると、はっきりお教えいただく。人間は生まれ替わり出替わりを繰り返して、一歩一歩、陽気ぐらし世界へ近づいていくのだろう。このことは私たちの信仰生活のうえで、決して欠かしてはならない教えのポイントだと思う。2021年度公開教学講座ラインナップ第1回永尾教昭所長110「魂は生き通し」第2回金子昭研究員127「東京々々、長崎」第3回尾上貴行研究員130「小さな埃は」第4回澤井治郎研究員138「物は大切に」第5回島田勝巳研究員123「人がめどか」第6回澤井義次研究員115「おたすけを一条に」※2021年度公開教学講座「第1回永尾教昭所長101『魂は生き通し』」の動画は、おやさと研究所のホームページから見ることができる。第2回以降の開催方法の詳細も同ホームページへ。文芸連載小説ふたり星の降る夜は作/片山恭一画/リン「ふたり」のバックナンバーを道友社HPで公開中。登場人物の相関図や作者のプロフィールも閲覧することができます。下記QRコードからアクセスしてください。第35話生き続けるために夜更けにハハは電話で誰かと長く話し込んでいることがあった。会話の一部は、床に寝そべっているわたしの耳にも入ってくる。「なくしたものにしがみついてばかりいる」と彼女は言った。「あの人のことを考えずに済むなら、なんだって差し出したい気分」そんなときのハハが、遠い目をしていることは見なくわかる。いなくなった人の重みで、身体中の骨がキシキシ音を立てていることも。「出会った日のことをよく思い出すの。これといったことは話さなかったけど、いちばん大事なことを話しているという実感があったそれからずっと、わたしたちは二人で一つだった。いまは自分を割れたグラスみたいに感じる」トトが亡くなってから、ハハはカンの部屋で寝るようになった。自分のベッドで寝ると、横でトトが寝ている夢を見るらしい。目が覚めるたびに、ひどい悲しみにとらわれる。それでハハはカンのベッドのそばにマットレスを敷いて寝ることにした。あるとき夜中に目覚めたハハは、起き上がって部屋のなかを不思議そうに見まわした。それから眠っているカンの顔を覗き込んだ。気配を感じて、あの子は静かに目をあけた。「足音が聞こえたような気がして目が覚めたの」。ハハは言い訳じみた口ぶりで言った。「見るとドアのところにトトが立っている。なんだ、夢だったのか。無事でよかった、ずいぶん心配したのよ。声をかけようとすると、それはあなただった。まるでトトが生まれ変わって帰ってきたみたいに」ハハはカンの肩にそっと手を置いた。「行かないでね」。祈るように言った。「絶対にいなくならないで」翌朝、ハハはカンと一緒にパンを焼くことにした。トトによれば、マグロのような回遊魚は泳がないと死んでしまうらしい。人間も同じで、何かしないと死んでしまうのかもしれない。ハハは生きつづけるためにパンを焼くことにしたのだろう。「大事なのは、何かをやりつづけることだよね。一つのことに没頭して何も考えないこと」そう言って、思いつめた顔で一心に小麦粉をこねていた。少しでも気を緩めたら、自分が小さな塊になって床に散らばってしまうかのようだった。毎日、ハハは欠かさずパンを焼いた。亡くなったトトの想い出を、美味しいパンのようなものにしたいと思ったのかもしれない。いつか膨らんで、いい香りを立てはじめることを願っていたのかもしれない。