天理時報2021年8月8日号8面
五輪連覇の偉業苦しい戦いを勝ち抜き「金」「何か実力以外の部分も…」天理大学柔道部OBの大野将平選手(29歳大原大教会ようぼく・旭化成所属)は、7月26日に東京・日本武道館で行われた「東京オリンピック柔道「競技」男子73キロ級に出場。決勝での延長戦の末、ジョージア代表のラシャ・シャフダトゥアシビリ選手を倒して金メダルを獲得し、オリンピック連覇を成し遂げた。天理勢〟のオリンピック柔道競技での連覇は、3連覇した野村忠宏さん以来2人目。日本選手としては7人目の快挙となった。天理大柔道部OB大野将平選手5年前、リオデジャネイロ五輪で優勝し、金メダルに輝いた大野選手。座右の銘は、穴井隆将・天理大柔道部監督から授かった「集中・執念・我慢」。昨年、五輪が延期となり、1年後の開催さえ危ぶまれる中も、不動心でトレーニングに打ち込んできた。執念見せた決勝戦7月26日、再び大舞台に立った大野選手は、初戦を股」、3回戦を「横四方固」準々決勝では合わせ技と、鮮やかな「一本」で勝ち進む。ところが、準決勝は怪力の相手に苦戦し、延長戦の末、「小外掛」で「技あり」を奪い辛くも勝利した。決勝も再び延長戦へ突入。厳しい戦いが続くなか、延長5分すぎ、「支釣込足」で相手を倒して「技あり」勝利への執念を見せ、オリンピック連覇の偉業を達成した。優勝が決まった直後、大野選手は深々と一礼すると、目に焼きつけるように数秒間、日本武道館の天井を見上げた。優勝を決めた直後のインタビューで、大野選手は「リオ五輪以降は『何のために稽古をやっているのだろう』と自問自答する日々だった」「苦しくて、つらい日々を凝縮したような、そんな一日の戦いだった。自分の中でも感じたことのない恐怖の中で戦っていたが、その中で勝ちを拾ってこられたのは、何か実力以外の部分もあったのかなと感じている」「今回の大会、賛否両ることは理解している我々アスリートの姿を見何か心が動く瞬間があれば光栄に思う」と語った。なお、大野選手は31日に行れた柔道混合団体に出場。日本代表は決勝で惜しくも敗銀メダルとなった。苦しい戦いを制し、五輪連覇を達成した大野選手。金メダルを手に笑顔を見せた(写真=共同通信社)東京五輪柔道男子73キロ級の決勝。延長戦で「技あり」を奪って優勝を決めた文芸連載小說ふたり星の降る夜は作/片山恭一画/リン第31話トトが愛した海それは海だった。トトが何よりも愛した海が、あの子と、あの子の幸せのあいだに割り込んだ。二つのものは、世界中の海を集めたよりも広く、遠く隔てられてしまった。トトの家は代々が医者だったから、当然のように彼も医者になった。しかし友だちに誘われて波乗りをはじめてからは、ほとんど医者とサーファーが兼業になった。「たしかに危険は伴うけれど、車を運転するのだって危ないわけだしね」自分が危険なことだと思っていたら、本当に危険なものになる、というのがトトの考えだった。怪我をするのは、たいてい余計な心配をしているときだ。心が波に打ち負かされるからパニックに陥り、肉体だけでなく感情も精神もバランスを失ってしまう。「いらないことを考えずに楽しむ、それがベストだ」トトは間違っていたのかもしれない。最初から波乗りなどと出会わないのがベストだったのではないだろうか。それは悪い出会いだった。でも波乗りと出会わなければハハとも出会わなかったわけで、そうなるとカンもわたしもここにはいなかったことになる。何をどう考えればいいのかわからないので、とりあえず歩くことにした。なぜ見えなかったのだろう?海が持ち上がることも、青年が車で海にダイブすることも、ツツたち一家がひどい事故に巻き込まれることも、カンには見えていた。トトのことにかぎって見えなかった。ぜだろう?考えてわかることではないし、わかったところでどうなるものでもない。だからわたしたちは歩きつづけた。「なぜ」に追いつかれないために。不思議なことに、トトが亡くなってから再びカンの道迷いがはじまった。また以前のように迷子になりはじめた。見覚えのあるものなど何もないという感じだった。わたしは思った。世界が変わってしまったのだ。トトがいた世界は、彼の命とともに失われてしまった。ただ一つの、かけがえのない世界が失われた。いまあの子がいるのは、まったく別の見知らぬ世界だった。誰もが大切な誰かを失い、そのたびごとにただ一つの、かけがえのない世界を失うとすれば、人は常に未知の世界で迷子になっているしかない。きっとハハもそうだったのだろう。迷ってしまわないように、彼女は家のなかでじっとしていることにした。「あなたが口をきいてくれたらね」。あるときカンの肩を抱いて言った。「そうしたらトトがいるような気がするかもしれない」それ以上、ハハは何も言わなかった。震えるようなひそやかな息遣いが聞こえてきた。何があっても絶対に泣くまいと声を押し殺しているみたいだった。そんなハハは、いまにも砂の人形のように崩れてしまいそうだった。「ふたり」のバックナンバーを道友社HPで公開中。登場人物の相関図や作者のプロフィールも閲覧することができます。下記QRコードからアクセスしてください。