天理時報2021年7月4日号8面
TenriSports[天理スポーツ]全日本選抜大会で準優勝天理大大学院生・同大レスリング部コーチ福井裕士選手天理大学大学院生で天理大レスリング部のコーチを務める福井裕士選手(32歳・樽水分教会愛知川布教所ようぼく=写真)は5月末、東京・駒沢体育館で行われた「明治杯全日本選抜レスリング選手権大会」男子フリースタイル125キロ級に出場し、準優勝に輝いた。天理高校第2部では柔道部に所属。4年時に全国高校定時制通信制大会の個人戦で優勝する。その後、天理大でレスリングに出合う。「始めて1年半は全く結果が出なかった」が、6キロのジョギングと2時間のウエートトレーニングを地道に続けた。そして2年時の夏、西日本新人戦で初優勝すると、4年時には「全日本レスリング選手権大会」フリースタイル96キロ級で、創部初となる3位に食い込んだ。めきめきと実力をつけた福井選手は、全国からエリート選手が集う自衛隊体育学校へ進む。一般自衛隊員と共に半年間の訓練を積んだ後、隊チームに合流した。チームではセレクションが毎年行われ、選手が激しく入れ替わる。ロンドン五輪金メダリストの米満達弘さんらがコーチとして指導するなか、国際試合での活躍を目指して研鑽を重ねた。その練習量は想像を超えるものだった。「トレーニングは量を重視する傾向にあり、かなりきつかった。大学時代、自分なりにしっかり鍛えたつもりだったが、当初は体がついていけなかった」と振り返る。8年間の在籍中に、海外のトップ選手が集まる「ゴールデン・グランプリ決勝大会」で5位入賞。在籍終盤の2年間はチームの主将を務め、一昨年の「全日本社会人選手権」フリースタイル男子125キロ級では初優勝を果たした。おぢばへの恩返しを2020年、天理大大学院へ進学した。そこには「おぢばの学校で育ててもらったことへの恩返しを」との思いがあった。大学院で学びながら、天理大レスリング部のコーチとして後輩の指導に当たることにした。福井選手は「これまで多くのトップアスリートの成長や苦悩、そして引退を側で見てきたことで、指導者としての〝目〟が養われたと思う」と話す。指導に際しては「トレーニング方法を確立していても、選手自身にモチベーションがないと効果はない。まずは、選手のレスリングへの気持ちをどれだけ高められるかを課題に、いまの時代に合ったやり方を監督と話し合っている」という。大学院では「レスリング選手の体力的特性と体幹伸筋群に対するトレーニング効果」をテーマに研究。その傍ら、午前中の2時間を自身の練習に費やす。先の明治杯では、10年ぶりに天理のユニホームを着て臨むと、大学王者との準決勝を難なく制し、決勝では自衛隊学校の後輩であり、全日本選手権大会で3度の優勝経験がある山本泰輝選手と対戦。序盤は2度の「指導」を与えられ、リードを許した。終盤にタックルで押し出してポイントを奪ったが、一歩及ばず。2-1で敗れた。福井選手は「この結果が、指導する選手たちの刺激になればうれしい。ただし、私にとっての今の喜びは、選手が結果を残すことなので、西日本リーグでの優勝を目標に、指導に力を注いでいきたい」と話している。文芸連載小說ふたり星の降る夜は作/片山恭一画/リン第28話帰ろう、カン海風が陸風に変わる夕暮れどき、吹くともない風に乗ってその情報はもたらされた。今夜、いよいよ島と陸がつながるらしい。夕食を終えると、カンはいつもより早めにベッドに入った。出かける時間まで少し眠っておくつもりなのだ。わたしは起きて時計を見張っていた。長い針が何周かしたころ、あの子の目から涙があふれた。カンは目を覚ました。「どうしたんだ?」家のなかは静かだった。トトもハハも眠っているらしい。時計を見る午前零時を少しまわったところだった。静かなのは家のなかだけではなかった。夜全体が静まり返っている。その静けさは、いつもと違って感じられた。家の前の木立を、真ん丸な月が明るく照らしていた。葉の一枚一枚までがはっきり見えるほどだった。海は沖のほうまで輝いていた。島はスポットライトを浴びたみたいにひときわ明るく浮かび上がっている。海のなかを一本の白い道が伸びていた。その上を歩いていく人影が見えた。どの影も一人きりで歩いていく。砂浜からつづく白い道を、わたしたちも歩きはじめた。二つの影が道に落ちている。影は目的の場所へわたしたちを誘導してくれるみたいだった。道の両側で、海の水は川のように静かに流れていた。水際で何か動く音が聞こえた。きっと小さな魚かエビの仲間だろう。いつも通っている海が塞がったので驚いているのかもしれない。水のなかで何かが跳ねた。ほかにはなんの音もしなかった。小さな石や砂を踏んで歩いていく足音だけが聞こえていた。途中で何人かとすれ違ったけれど、誰も口をきかなかった。ただ黙々と歩いている。お互いの顔を見ることさえない。きっと大切な願い事は、一人きりでかなえてもらうものなのだろう。島に足を踏み入れると、鬱蒼としたヤシの林になった。鋭いヤシの葉が四方から迫ってくる。林のなかは植物たちの呼吸で満ちている。風はそよとも吹かなかった。息苦しくなり、頭がくらくらした。目の前に小さな石の祠が現れた。あたりに人の気配はない。誰かが願いをかけているあいだは、ほかの人は遠慮して入ってこないのかもしれない。月の光は静かに祠の上に落ちていた。カンは祠の前で動かずにいる。どうやって願い事をするのだろう。やり方を知知っているのだろうか。祠のまわりには石石が積んであり、小銭がたくさん置いてあった。カップ酒や菓子なども見える。突然、何かが押し寄せてくる気がした。巨大な獣が地の底から吠えているみたいだった。それは地の底から湧き上がるようにして高まった。海の底を何台ものトラックが通り過ぎていくような、唸り声にも似た遠い潮のうごめきだった。帰ろう、カン。ここは長くいるところではない。「ふたり」のバックナンバーを道友社HPで公開中。登場人物の相関図や作者のプロフィールも閲覧することができます。下記QRコードからアクセスしてください。