天理時報2022年10月12日号8面
【第27話 人生は素敵なことばかりではない – ふたり】そして事件が起こった。母親と一緒に「えほんの郷」を訪れた小学生の男の子がいなくなったのだ。母親は子どもを残して用事を片付けるために町へ戻った。夕方には迎えに来ると言っておいた。そのあいだ男の子は絵本を読んでいるはずだった。いなくなった子どもの両親、のぶ代さんと保苅青年、それに省吾さんも加わって農場の周囲を探した。あたりはしだいに暗くなってくる。そのころ新太は一人で近くの稲荷神社にやって来ていた。半月ほど前に、両親に連れてきてもらったことがある。今日は一人で行ってみようと思った。前回は縁日で、大勢の人で賑わっていた。神社の参道には露店がたくさん出ていた。いまは店もなく、あたりはひっそりとしている。石段のところで、キツネが怖い顔をして見ていた。赤い前掛けをしている。石段の外の暗い森のなかに、たくさんの鳥居が並んでいるのが見える。赤い幟が風になびいている。どうして赤ばかりなのだろう?急に心細くなった。こんなところに一人で来たことを後悔した。早く家に帰りたい。でも、どっちへ行けばいいのかわからない。誰か知った人に会わないだろうか。拝殿の軒下に吊るされた提灯が薄暗い明かりを落としている。賽銭箱の前で手を合わせた。前に来たとき、みんなそうしていたからだ。たしか手も叩くのだったが、いまは物音を立てないほうがよさそうだ。新太はぎこちなく手を合わせるだけにした。ついでに頭を下げた。顔を上げると、拝殿の柱の陰からキツネがこっちを見ていた。思わず息を呑み、それから一目散に駆けだした。キツネは追いかけてくる。いつの間にか声を上げながら走っていた。泣き声とも、絶叫ともつかない声だ。彼はいま重大なことを学ぼうとしていた。人生は素敵なことばかりではない。危険なことや怖いことも待ち受けている。友好的で幸せに満ちていた世界は突然様相を変えた。そこから全速力で逃げ出そうとしていた。石の鳥居を抜けた。もうすぐ石段だ。だがキツネのほうが足は速い。どうすればいい? どうしようもない。このままではつかまってしまう。石段のところに知らない顔が二つあった。男の人と女の人だ。この人たちなら安心できそうだ。新太は二人のほうへ走り寄った。あとからキツネがやって来る。「みつる」。女の人が言った。安堵とも叱咤ともつかない声だった。「心配したじゃないの。こんなところで何をしていたの」作/片山恭一 画/リン, 【断水地域で給水支援 – 災救隊静岡教区隊】9月23日夜から24日にかけて、静岡県は台風15号の影響で記録的な豪雨に見舞われた。これにより、県内各地で河川が氾濫し、浸水被害が出たほか、一部地域で長期にわたる断水が続いている。こうしたなか、天理教災害救援ひのきしん隊(=災救隊、橋本武長本部長)静岡教区隊が県内の被災地へ出動した。“災害ごみ”や土砂の搬出も静岡市清水区では、地域住民の水源となる興津川の取水口に土砂や流木が流入したことなどにより、水道施設が被災して大規模な断水が発生。約6万3,000世帯の生活用水が断たれた。また、同区内を流れる巴川が氾濫したことで、浸水被害にも見舞われた。静岡教区隊(山口志朗隊長)は9月28日、静岡市社会福祉協議会と折衝し、被害状況を確認した。同日、ボランティアセンターが立ち上がると、9月29日から10月5日にかけて同教区隊の第1次隊出動を決定。同教区隊は災救隊本部へ給水車の借用を申し入れ、災救隊本部は同日、給水車2台を静岡市へ緊急輸送した。翌29日、静岡教区隊の隊員たちは、断水が続く清水区内で給水支援活動を展開。住民たちに生活用水を届けた。また、浸水被害に見舞われた民家へ赴き、土砂や家財道具の運搬にも力を尽くした。このほか、静岡市葵区と磐田市へも出動。一日当たり2、3軒の民家で“災害ごみ”や土砂を搬出したほか、公道や側溝の泥出し、清掃などに従事した。災救隊本部は、静岡教区隊の要請に応え、給水車を緊急輸送した(9月28日)静岡教区隊の隊員たちは、給水支援の活動に従事した(10月1日、静岡市清水区で)民家に流れ込んだ土砂を屋外へ運び出す(10月2日、同)山口隊長(57歳・駿東分教会長)は「今回の台風被害は広範囲に及び、いまだ支援の手が届いていない地域もある。私たちの活動が少しでも県民の皆さんの支えとなり、一日も早い復興へつながることを切に願っている」と語った。なお、10月3日までに延べ217人の隊員が出動。5日までの第1次隊に続き、6日から10日にかけて第2次隊が出動する予定。(10月3日記)