天理時報特別号2021年11月号3面
今年の梅雨を迎えたある日、「もう、よしえ(奥さん)に来生のプロポーズを済ませたんや。だから、あとは親神様に委ねるだけや」と言った。そして7月1日午前11時過ぎ、車中にいる私の携帯に、妻から泣き声だけの電話があった。すべてを察して私も一人、涙をぬぐった。その日、私は、ある病気を患っている方の家へ向かっていた。妻の心情を察し、家に戻ろうかとも思ったが、知三さんはきっと、この人だすけを応援してくれているに違いないと思い直し、唇を噛みしめ目的地に向かった。葬儀の日、喪主を務めた奥さんが、いさつに立った。「主人が遺した走り書きのメモがあったので、それを読んで、あいさつに代えたいと存じます」と前置きし、その文を読んだ。「もし生前、私の無神経な言動で傷つけた方があれば、一人ひとりに直接お会いし、素直に心からお詫びしたい。私の一生は、素晴らしい方々との出会いに満ちたものだった。(中略)多くの人々から頂いた真実に対して、一人ひとりに直接お会いして、感謝と正直な気持ちを伝えられたら、どんなにありがたいことだろう…」どこまでも人に優しく、人を思い、を大切にした人生だったのだろうと、胸を打たれた。その2ヵ月前に、私の娘夫婦に第2子「つむぎ」が誕生した。知三さんは「つむぎが生きる力をくれた」と言って、写真を眺めては喜んでくれた。つむぎを抱くと、知三さんから命のバトンを受け継いだように感じる。優しく温かく人との関係を紡ぎ、皆から愛されたバトンだ。私の好きな風景表紙のはなし西薗和泉IzumiNishizono「秋の日差し」よい天気に誘われ、スケッチに出かけました。コンビニで買ったおにぎりを食べながらのスケッチです。秋といえども日差しは強く、暑かったです。写生場所……京都府木津川市にしぞの・いずみ1960年、奈良県天理市生まれ。84年、京都市立芸術大学油画科卒業。2021年まで天理中学校美術教諭を務めた。著書に『木かげと陽だまり水彩こころの覚え描き』(道友社刊)がある。