天理時報2022年11月30日号8面
【第32話 かならず幸せになる – ふたり】かすかに秋の香りがする美しい晩、二人は庭のテーブルでお茶を飲んでいた。日曜日なので、レストランは早めに店じまいをしている。空には最初の星々が輝きはじめていた。銀色の大きな月が、黒々としたヤマモモの上に昇ろうとしている。「カンは小さいころ、ものにぶつかってばかりいたでしょう」。ハハは遠い思い出を手繰り寄せるような口調で言った。「歩いても走っても何かにぶつかってしまう。わたしは夜も眠れないほど心配だった」カンは紅茶のカップを手に持ったまま話を聞いている。かすかに海の匂いがする。それは懐かしいものを運んでくるようだ。「トトはおばあちゃんっ子だったらしいの。ご両親が忙しくて、おばあちゃんに育てられたのね。幼いトトによくお話をしてくれたんだって。お話のなかにはいろんな子どもが出てくる。朝から晩まで寝てばかりいる子や、ぼんやりして景色ばかり見ている子、お団子ばかり食べている子とかね。いまだとゲームばかりやってる子どもってとこかな」庭の隅にアジサイが三株ほど植わっている。ハハが丹精しているもので、花の色はそれぞれ違う。水色、赤紫、白……濃い青のアジサイが欲しいと思っているけれど、なかなか見つからないらしい。「おばあちゃんの話のなかでは、どんな子どもでもかならず最後には幸せになる」。ハハはつづけた。「寝てばかりいる子は、いつかかならず起きるし、劣っているように見える子も、何か思いがけないことにすぐれていたりする。人ってたいてい誰でも、どこかヘンだったり、欠点があったりするものよね。親は自分の子どものことしか知らないから、この子は大丈夫だろうかって心配するけど、おばあちゃんの話のなかでは、いろんな子どもの成長が語られていて、いつかみんなそれぞれの仕方で幸せになれる。この子もきっとそうに違いない。いつか自分にふさわしい幸せを見つけるだろう。だから心配はいらないって、トトは言っていた」ハハの話のなかから、懐かしい人の姿が浮かび上がってくる。それはトトのようでもあり、トトのおばあちゃんのようでもあった。「わたしもそんな気になって、この子はきっと大丈夫だ、かならず幸せになれると思った」先ほどまでわずかに残っていた夕暮れは、青のなかに溶けてしまったようだ。二人のまわりで夜の青が濃さを増しつつあった。「人の声って、不思議ね」。しばらくしてハハはひとりごとみたいに言った。「幼いころに聴いたおばあちゃんの声が、大人になったトトのなかに残っていたように、わたしにもトトの声が残っている。いつまでも残りつづけて、心配はいらないって励ましてくれる」作/片山恭一 画/リン, 【ライバル制し4年ぶり“花園”へ – 天理高ラグビー部】純白のジャージー軍団が待望の“花園”へ――。天理高校ラグビー部は11月20日、橿原市の橿原公苑陸上競技場で行われた「全国高校ラグビーフットボール大会」奈良県大会決勝に進出。過去3大会、優勝を阻んだライバル・御所実業高校に勝利し、4年ぶり64回目の全国大会出場を決めた。今年4月、日本ラグビーの最高峰「ジャパンラグビーリーグワン」のNTTドコモレッドハリケーンズでプレーした王子拓也教諭(27歳・同部OB)をコーチに迎え、新体制で始動した同部。太安善明キャプテン(3年)を中心に、王子コーチの助言を取り入れながら、日々の練習メニューやトレーニング計画を自主的に策定するなどして、試合中の状況判断や修正力の向上を図ってきた。堅守からリズムつかむ迎えた今大会。天理高は合同チームとの初戦を100点ゲームで難なく突破。28年連続で同じ顔合わせとなる御所実業高との決勝戦に臨んだ。試合は前半15分、御所実業高に自陣ゴール前でディフェンスの隙間を突破され、先制トライを許してしまう。その直後、太安キャプテンは「気持ちをリセットして落ち着いていこう」とメンバーに声をかけ、コミュニケーションを取りながらディフェンスの修正を図った。7点を追う前半終了間際、天理高はハーフウエーライン付近での相手の反則によりペナルティーキックを選択。キッカーの須田厳太選手(同)が約45メートルの長距離キックを成功させて3点を返し、3‐7で前半を終えた。堅いディフェンスから攻撃のリズムをつかんだ天理高は、後半9分、ゴール前のラインアウトからモールを押し込むトライで逆転。勢いに乗った天理高は、フォワードを軸とするコンタクトプレーで相手チームを圧倒していく。16分には、川越功喜選手(同)が点差をつけるトライを決めた。その後もセットプレーで優位に立つ天理高は、堅守でリードを守りきり、そのままノーサイド。15‐7のスコアで、4年ぶりに“夢舞台”への出場切符を手にした。松隈孝照監督(50歳)は「準備していたフォワード陣のプレーが機能したこと、落ち着いた状況判断と中盤の我慢強さを発揮できたことが、良い結果につながった」と試合を振り返った。太安キャプテンは「花園でも焦らず、ひたむきなプレーで、一戦一戦勝ち進んでいきたい」と抱負を語った。天理高と御所実業高の試合動画を視聴できますhttps://youtu.be/D4wGftu4iSA