天理時報2022年12月14日号8面
【第33話 壮大な音楽を奏でる世界へ – ふたり】前話のあらすじかすかに秋の香りがする美しい晩、カンとハハは庭でお茶を飲んだ。ハハは遠い思い出を手繰り寄せるように、トトについて話しはじめた。第32話 かならず幸せになる夏休みの終わりにさとしがやって来た。いまは山に囲まれた小さな町で、母親と二人で暮らしているらしい。父親は遠く離れた都会にいる。両親のあいだでは正式な離婚の手続きが進められている。子どもがそれをどう受け止めているのかわからない。手の空いた午後、カンはさとしを海に連れていった。潮の引いた岩礁の生き物たちを一緒に見てまわった。小さな魚、エビ、貝、イソギンチャク、アメフラシ……みんな子どものころからの、カンの大切な仲間だ。カンは過ぎ去った時間を呼び戻すように、海の彼方に目を凝らしている。さとしがたずねた。何か見えるの?いろんなものが見えるよ。イルカの群れ、遠い海で潮を吹くクジラ……。子どもは疑い深げにカンを見た。さとしには何が見える?彼は答えるかわりに、目を伏せるようにしてカエルの話をはじめた。なぜそんなことをするのかわからなかった。楽しかったわけではない。いけないことをしているのはわかっていた。でも、どうしてもやめられなかった。ごめん、ごめんと謝りながら石を投げ、カエルを殺しつづけた。話をしながら、さとしは自分がとらわれている世界から、懸命に出ていこうとしているように見えた。カンは何も言わず、ただ眩しく輝く海の彼方を見ていた。やがてこんな話をはじめた。アラスカの川には、サケが産卵のためにたくさん遡上してくる。それを捕まえるクマは、栄養が豊富な皮や卵しか食べずに、ほとんどは捨ててしまう。捨てられたサケを、カモメやワシやカワウソやアライグマが食べる。そうやって海からの豊富な栄養源は森に還っていく。さとしはカンの一言も聞き漏らすまいとするかのように、注意深く話を聞いている。サケが帰ってくるのは自分が生まれた川だ。太平洋で育ったサケも、産卵のために故郷の川に帰ってくる。それをクマなどが食べる。不思議なことだと思わないか? サケが最後に帰ってくるところは、自分の親や祖先が、クマや別の動物たちの餌になって、豊かな森を育てたところなんだ。カンはまなざしを海の彼方へ向けたまま、何かに強く心をひかれたような声でつづけた。サケもクマも他の動物たちも、森の虫や微生物たちも、みんなで壮大な音楽を奏でているみたいじゃないか。そんな世界に、いつか行ってみたいと思わないか?さとしは答えなかった。きっと彼の心はすでにアラスカに旅立っていたのだろう。そうして哀れなカエルたちを殺すちっぽけな自分を省みていたに違いない。作/片山恭一 画/リン, 【3年ぶり“日本一”に輝く – 天理高弦楽部】日本学校合奏コンクール天理高弦楽部は、日本学校合奏コンクールの「文部科学大臣賞」を3年ぶりに受賞した(11月19日、千葉県文化会館で)天理高校弦楽部(新誠一部長)は11月19日、千葉市の千葉県文化会館で開催された第11回「日本学校合奏コンクール2022全国大会」(主催=同委員会、後援=文化庁ほか)ソロ&アンサンブルコンテスト高等学校の部に出場し、第1位相当の「文部科学大臣賞」を受賞した。同賞に輝くのは、3年ぶり5度目。このコンクールは、子供たちの音楽性と演奏力を高めるとともに、豊かな情操と人間性の育成を目指して10年前に始まったもの。同部は7年前、天理教音楽研究会「弦楽教室」へ通う4人の部員でカルテットを組んで初挑戦し、「文部科学大臣賞」受賞。以後、弦楽合奏で出場を続けてきた。今年披露した曲は、チャイコフスキー作曲の『弦楽セレナーデ』。敬愛するモーツァルトの精神へと立ち返ることを目的に同曲を制作したチャイコフスキーは、パトロンに宛てた手紙の中で「強い内的衝動によって書かれたもので、だからこそ真の芸術的な価値を失わないものです」と記している。今回、演奏したのは同曲の第4楽章。上田真紀郎コーチ(45歳)は「作曲者自身が記しているように、非常に芸術性の高い作品。部員たちには、第4楽章だけでなく全楽章の流れをイメージすることで、作曲者の思いや考えに近づくことを意識させた」と話す。音楽的に隙のない名演高校の部には、予選を通過した11校が出場。本番直前、部員たちはおぢばを遙拝し、ステージへ。冒頭、弱音器をつけたバイオリン、ビオラが静かにロシア民謡のテーマを奏でる。幻想的な雰囲気の序奏に続き、主部では一転して第1バイオリンの快活なメロディーが響きわたる。さらに、バイオリンが細かくピチカートを鳴らすなか、チェロが優雅な旋律を披露。終盤では、同曲第1楽章の冒頭部分がドラマチックに奏でられた後、再び第4楽章の快活なテーマが流れ、ムードが最高潮に達したところで終演した。結果発表では、同校は3年連続の「金賞」受賞。最後に、司会が「文部科学大臣賞――天理高等学校」とアナウンスした瞬間、部員たちは喜びのあまり涙を流した。プロ奏者や指揮者から成る審査員たちは「各楽器がよく鳴っていて、とても20人のアンサンブルとは思えない」「冒頭の繊細な美音で魅了され、最後まで一貫して音楽的に隙のない名演」と評価。5人中3人が、技術点・芸術点ともに満点をつけた。コンサートミストレスの田川ふみさん(3年・バイオリン)は、「日ごろからメンバー全員で音楽をつくることを意識したことで、舞台でも自分たちの力を最大限に表現できた。後輩たちには、聴いてくださる人を幸せにするような演奏を目指してほしい」と語った。天理高弦楽部の演奏動画を視聴できますhttps://youtu.be/xGzgFT6aF1o