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おにぎりと感謝の心 – あなたへの架け橋


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発祥は弥生時代

イラストレーション:西村勝利

「好きな食べ物は?」と聞かれて、「おにぎり」と答える私は、少し変わっているのでしょうか。

おにぎりといえば、いまやコンビニのものが主流かもしれませんが、私が好きなのは、手作りの、しかも自分で握るおにぎりです。もちろん、ほかにも好きな食べ物はたくさんありますが、そのなかでも上位にランクインするくらいの大好物です。

理由はいくつかあります。一つ目は、持ち運びができて、いつでもどこでも気軽に食べられること。二つ目は、ご飯と具材と大好きな海苔を一度に食せること。そして三つ目は、トッピングやアレンジが豊富なこと。

私の住む名古屋の名物に「天むす」があります。これも約60年前に誕生したおにぎりの変化形です。ほかにも、焼きおにぎりや洋風アレンジなど、さまざまな工夫をして楽しめるのが魅力です。

私が作るのは、コンビニおにぎりの7割くらいの大きさで、中に梅干しや昆布などの具材をたっぷり入れて、やや固めの三角形に握り、海苔をおしゃれに巻いた二口サイズ。わが家の食卓に上るのはもちろん、教会のレクリエーションなどでもよく作ってきました。

おにぎりの歴史をひもとくと、発祥は弥生時代にさかのぼります。平安中期には、貴族が蒸したもち米を握り固めた「屯食」を、従者に振る舞っていたそうです。その後、鎌倉時代には戦の兵糧として梅干し入りおにぎりの人気が高まり、全国へ広がりました。

おにぎりが弁当として庶民にも重宝されるようになったのは江戸時代。元禄期には海苔の養殖が始まって、海苔巻きおにぎりが開発されました。

一方、このころは京の御所に仕える人々も盛んに食べていたといいます。そこで、一般庶民の食べ物とは違うという意識から「おむすび」の呼称が生まれたという説もあります。

神聖なる山の形

私がおにぎりを作ったり食べたりするのが好きになった理由が、もう一つあります。それは、4人の子供たちが小さかったころ、朝食におにぎりを作ると、口々に「お父さんのおにぎりおいしい。ありがとう!」「最高にうまい!」と、いつも絶賛され、感謝してくれたことです。

調子に乗りやすい私は「よし、もっとおいしいのを作ってやろう!」と発奮しました。その思いは今でも変わらず、嫁いだ娘たちが時々、孫を連れて里帰りをすると、おにぎり作りに精を出しています。

人は些細なことでも感謝されたり褒められたりすると嬉しいもので、「こんなに喜んでくれるなら、これもしてやろう、あれもしてやろう」という気持ちになります。

ここで、ふと考えました。こういう気持ちになるのは人間だけだろうか、と。いや、そうではないだろう。日常で使う道具、乗り物、食品、衣類に至るまで、使う人の喜びと感謝の気持ちは、それらにも伝わっていると思いたいのです。

体内の機能や自然現象も同じです。人間は、太陽光や水がなければ生きていけないのですから、毎日当たり前のように使う自分の体や、降り注ぐ日差し、雨や雪をもっと喜んで、感謝を捧げる必要があるのではないでしょうか。そうすれば、自然の恵みを与えてくださっている天の神様も嬉しい気持ちになって、「こんなに喜んでくれるなら」と、人間がもっと安心して陽気に暮らせるように守ってくださると私は信じています。

おにぎりの三角形は、山がモチーフになっているともいわれます。神聖なる山を崇め敬う気持ちから、お米を三角形に握って神前に供えたのが、おにぎりの原型だということです。そうであれば、おにぎりには父祖の、山の幸をはじめとする自然への感謝の心が込められているといえるでしょう。

小さな出来事を大きく喜び、当たり前の現象に深い感謝の心を持つ。その積み重ねが、人生に大きな喜びを招き入れる秘訣であることを、小さなおにぎりが教えてくれました。


安藤正二郎(天理教本則武分教会長)
1959年生まれ


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