書評 – 宗教から見た世界
新しい視点と広い視野で世界と社会の“今”を掘る
羽成 守(日帝分教会長、弁護士)
『天理時報』の名物編集長であった松本泰歳氏が定年で第一線を退かれた。
松本氏は、天理教の機関紙を教外との接点とも捉え、世界に通じる時報とするべく努力された。そんな氏の思いが企画化され、結実したものの一つが本書である。
激動する世界情勢を宗教の視点から論じるエッセーで、世界の政治や事件の背景に、宗教が少なからず影響しているということを、著名な宗教学者である島田氏が13年間にわたって時報紙上に連載したものである。
島田氏は、執筆のための資料を主に海外メディアや文献に求めたとのことで、日本国内のメディアが表面的にしか取り上げなかった事実を深く掘り下げている。筆者も楽しく読みながら、初めて知ることばかりであった。
世界はいま、「正しいかどうかより、自分にとって都合が良いかどうか」を判断基準とする「ポスト・トゥルース」の考え方が強くなっている。そのような時代だからこそ、世界に起きたあらゆる事実に、正しい宗教知識をもって対応する「宗教リテラシー」が求められている。
本の帯の部分に、この「ポスト・トゥルース」と「宗教リテラシー」という見慣れない横文字が使われているのも、そのような意図であろう。
本書は、宗教を通して世界を知るための最先端の内容に溢れている。しかも分かりやすいのだ。
全編を通じて、天理教の教えについての記述はない。しかし、この教えを信じる者、あるいは教えを世界に広める者にとって知らなければならない、世界と社会の“今”を深く理解する基礎知識が、ふんだんに盛り込まれている。
教内外を問わず、新しい視点をもって広い視野で書かれた本書に、ぜひ目を通していただきたい。
読んで損はありませんよ。