すきっとVol.37 一歩一歩着実に歩んだ“人生の階梯”を語る
特集
STEP BY STEP
「すきっとした気分で暮らすために」をコンセプトに、著名人へのインタビューや対談などを掲載しているインタビュームック『すきっと』の最新第37号が12月1日に発売される。今号のテーマは「STEP BY STEP」。特集では、大相撲・横綱の照ノ富士関、漫画家のヤマザキマリさん、映画作家の河瀬直美さんが、これまでの経験で培った人生を歩むうえでの信念を披歴している。さらに、人気コーナー「ヒューマン」では、今夏の東京2020パラリンピック閉会式で演奏を披露した「7本指のピアニスト」の西川悟平さんが、難病のジストニアを発症したからこそ得た気づきについて語っている。ここでは、特集とヒューマンの中から“光ることば”をピックアップする。
相撲のおかげで、いまの自分がある。それが自分のすべてです
照ノ富士 大相撲・横綱
親方や女将さんに育てていただいて、みんなと稽古をしてきたおかげで、相撲は強くなったかもしれません。でも、偉くなったわけじゃない。そう思うんです。
ただただ肉体と精神を鍛えて、相撲で活躍できる人間になりたいと思って、今日までやってきました。
自分は、丁髷を落とせば普通の人です。社会のことは何も分かりません。相撲しかできない。そういうことは忘れてはいけないと思っています。
相撲のおかげで、いまの自分がある。それが自分のすべてなんだと思います。お相撲さんは、そうじゃなきゃいけないと思っています。
子供たちや若い人たちには、もっと相撲を見てほしいです。それで相撲界が盛り上がって、相撲をやりたいという子が出てくればいいなと思います。一人でも二人でも、その子たちが目標とする力士のなかに、自分の名前が挙げられたら、ありがたいことです。
いまは立ち止まって考えるとき
ヤマザキマリ 漫画家/文筆家
いま、緊張感をずっと保つことも苦手、考え続けているのも苦手というように、人々の心はなるべく楽をしたい、労力を使いたくないという方向に行きがちです。けれども、私は、むしろこういうときだからこそ、人は自分の頭で考え、自分で判断をするというスキルを高めるべきだと思っています。
人々が自分の頭で考えなくなり、楽をしてなんとなく流されて生きていくようになった結果、社会がひどい方向に行ってしまったことも、過去には何度もあったわけです。たとえば、スペイン風邪の後にナチス・ドイツが横行したり、ファシズム政権が樹立されたり。これらはみな、第一次大戦とパンデミックで、人々が疲れ果てたときに発生したものだということを、思い出す必要はあると思います。
耳の痛いことを避けず、面倒なことからも目を逸らさず、この時間をいかに過ごすかによって、未来が変わってくると考えています。
バスケットボールと映画制作 東京五輪を通じて一本の道に
河瀨直美 映画作家
島国の日本では、どうしても多様性というものが排除される傾向にありますが、これからの子供たちには、世界にはいろいろな考え方があることを知ってもらいたい。それを排除するのではなくて、自分のなかで理解し、対話を重ねて次の一歩を踏み出していく。そういう行動をしてほしいと思うんです。
私は映画を通して世界の常識というものを、ある程度見てきました。それはまさに目から鱗が落ちる体験でした。受け入れるには自分を壊さなければならないくらいの苦悩もありましたが、それを乗り越えた瞬間から、すごく自由になれたように思います。
その一方で、私たち固有のものを失ってはいけない。外の新しい文化に触れ、そこに私たちの素晴らしい文化を融合させ昇華させていく。そういう柔軟性のある子供たちが育まれることを願っています。
「君にもできる」の思いを込めて――2億5千万人へ届けた音――
西川悟平 ピアニスト
いま世界の国々で演奏させていただいていますが、当然、楽譜どおりのテンポでは弾けない曲もあります。けれど、そのおかげで見つけたことがあります。テンポを落として弾くことで、これまでとは違った曲の表情をつくり出せるようになったのです。一つの音の余韻を響かせながら、そこへまた別の音を乗せていく。一つひとつの音、音の粒に対して、より深く考えることができるようになりました。そうすることで、僕だからこそできる演奏、曲の響きを出すことができるように思うんです。
そのことに気づいたとき、ふと「ジストニアよ、ありがとう」と思えた。動かない指ではなく、動く指のほうに目が向いたというのでしょうか。僕にはまだ動く指が七本もある。そのことが奇跡のように感じられる。当たり前のことが、当たり前ではないことに、ジストニアが気づかせてくれたのです。