「一列ろくぢ」の特別なお言葉 – 視点
昭和39年に出版された有吉佐和子の小説『非色』が話題になっている。当時のアメリカ社会における人種差別がテーマで、長い間絶版になっていたが、先ごろ世界中に広がった人種差別の撲滅を訴える運動(Black Lives Matter)を機に、昨年、文庫本として復刊され、異例のヒットになっている。
幼いころ外国で暮らし、ニューヨークへ留学した経験もある作者が、現地で実際に見聞きしたことをもとに書き上げた小説である。
主人公は終戦直後、黒人兵と結婚した日本人女性。豊かさと自由を夢見てアメリカへ渡るも、そこで人種差別に巻き込まれていく姿が描かれる。やがて主人公は、黒人同士が職業や収入で互いに優劣を付け合う姿を目の当たりにし、差別は肌の色のみならず、誰もが持ち得る心の問題だと気づく。
差別は「色に非ず」の「非色」である。これは作家自身の考えではあるが、その是非はともかく、60年前に書かれたとは思えぬ先進的な洞察に驚かされる。
『稿本天理教教祖伝』には次のような記述がある。明治20年陰暦正月二十五日の夜、教祖が現身を以てこの世に現われて居られた最後の夜、教祖のお身上宜しからず、飯降伊蔵を通して伺うた処、「さあ/\すっきりろくぢに踏み均らすで。さあ/\扉を開いて/\、一列ろくぢ。さあろくぢに踏み出す(後略)」とのお言葉である。「ろくぢ」の「ろく」は「陸」のことで、高低のない平らな地面のことである。
「おさしづ」には「心に掛かる事があれば、陽気とは言えん。皆んなろくぢに均して了うで。あちらが分からん、こちらが分からん。元の所より分からんから、分からせんのやで」(明治21年10月12日)とあり、ろくぢに均すには「元の理」を心に治めることが根本であると示され、さらに、「ろっくに理を持つから、ろっくに治まる」(明治28年7月13日)と、先の作家もふれたように、各々の心のありようが大切と諭される。
教祖が現身をかくされる前夜の「一列ろくぢ」という特別なお言葉を、深く思案する時が来ているかと思う。
(橋本)