時報歌壇(2024年9月4日号) – 植田珠實選
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【AI音声対象記事】
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突然に丈夫な妻が床に臥し我が家はさながら皆既日食
所沢市 岡田陽一
花開くその瞬間を見るという夫はひなたの猫のごとなり
旭川市 笠井博美
めまいして悩むところに布教師のおさづけ嬉し八十路生きたり
名古屋 伊藤紘美
ありし日をテープに偲ぶ夕暮れに今亡き妻と語る声かな
秋田市 高橋重雄
月だけぢやさみしいから、と独り酒の肴にされし電話もう来ず
東村山市 加藤八重子
花ちりてわかばの陰につぶら実のここだと生りて酸橘のはつなり
高槻市 石田たまの
凸凹の波止場を歩くかもめ鳥怪我をするなよ片陰行けよ
石川県 岩城康徳
時として無為をよしとすおのれありこれも一つの老いの才覚
八尾市 伏田和子
生涯に妻を娶らぬK君は背中の湿布に苦労している
甲賀市 岨中幸男
幼き日、口紅触り叱られた 浮かんでくるのは若かった母
宇佐市 三好秋美
君逝きて七年になる今宵また小さき星のひそと瞬く
横浜市 及川秀代
東本の詰所のあたり蛍舞う幼きころの昭和の景色
奈良市 豊口千代子
夏野菜に「おいしくなあれ」と声かけて一握りなる肥料を与うる
福山市 藤井光子
無人市地元野菜の作り手に働き者の従姉妹の名のあり
熊野市 福山久美子
花蘇芳老女の紅さす如く見ゆ四季は豊かに春はことさら
東京都 田林美智子
選者詠
空襲を思ひ出すよと耳塞ぐ
祖母とふたりで見上げし花火
【評】
岡田さん――奥さまがお元気になられたら皆既日食も終わり。また太陽が家の中を明るく照らすのでしょう。
笠井さん――夫を見るまなざしも日向のように温かい一首。
伊藤さん――「布教師」という言葉がお歌の中で輝いています。
次回は、10月末までの到着分から選歌。投稿は短歌3首まで。お名前(ふりがな)、電話番号、住所を付記のうえ、下記までお送りください。
〒632‐8686 天理郵便局私書箱30号「時報歌壇」係
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