特集 道に定年なし――“生涯現役”のようぼくたち
2025・1/1号を見る
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「人生100年時代」といわれる昨今、定年退職後も仕事を続けたり、地域に貢献したりする人は少なくない。この特集では、70歳を過ぎてなお、教祖の教えを胸に特技や経験を生かして社会で活躍する“生涯現役”のようぼく3氏を取材。それぞれの活動に込める思いや、背景にある信仰信念を紹介する。
ハサミと心を磨いて40年
“日本唯一”の研磨工
根矢二郎さん
74歳・西北分教会教人・奈良市
「父が始めた仕事を続けられていることが幸せ」。研磨工として40年以上にわたり、一つひとつの仕事に向き合ってきた根矢二郎さんは笑顔で語る。
父・純三さんのもとで腕を磨いた。無欲で誠実、朝から晩まで働く父親の姿は「『朝起き、正直、働き』の教え、そのままだった」。その背中を見て、類いまれな技術と信仰を受け継いだ。
根矢さんが研ぐのは、主に理容師や美容師が使うハサミ。その高い技術は“日本唯一”で、平成17年には研磨工として初の「現代の名工」に選ばれた。21年には「黄綬褒章」を受章。いまも年間1000人以上から依頼が来る。
根矢さんの技術は現在、息子・知和さん(44歳)に受け継がれている。
「いまの私があるのは、父が『人の役に立ちたい』との心で徳積みをしてくれたおかげ。私も息子のために徳積みに励みたい」
70歳を越えてなお、真面目に、丁寧に仕事に取り組む。「体が元気な限り現場に立ち、たくさんの人に喜んでもらいたい。それが父への恩返しであり、親神様に喜んでもらうことにもつながると信じる」。大忙しの研磨工は、今日も3代目と共にハサミと心を磨く。
町にたすけ合いの輪を広げ
地域推進協議会の相談役
秦 孝雄さん
76歳・豊能分教会豊木布教所長・大阪府池田市
信仰3代目の秦孝雄さんは、生まれ育った町をより良くしようと、「ほそごう地域コミュニティ推進協議会」の相談役として活動している。
20代のころ、腰の身上を機に志願した修養科で「人救けたら我が身救かる」の教えに感銘を受けた。
修了後、製材会社を営む傍ら、地域の青年団などの活動に参加。42歳のとき市議会議員に初当選すると、16年4期にわたり、市政に携わった。
退職後の平成19年、「ほそごう 」を設立。住民が主体的に町づくりをする地域社会の実現を目指し、地元産業の支援や高齢者向けの弁当づくりなどに取り組んできた。なかでも力を入れたのが、地域伝統である植木産業の魅力を子供たちに伝えるための自然体験教室だ。
「子供たちと一緒に里山の間伐作業などをすることで、自然の有り難さやたすけ合いの大切さを伝えてきた」
現在も地域住民のために力を尽くす秦さん。「住民がたすけ合う姿や子供たちの笑顔のおかげで、これまで活動を続けられた。わが町にたすけ合いの輪を広げられるよう、これからも『人救けたら我が身救かる』の教えを大切に、お借りしている体を存分に使っていきたい」と語った。
恩返しの思いを糸に込めて
世界第3位のキルト作家
糸賀せつ子さん
75歳・武川分教会教人・兵庫県宝塚市
2024年11月、横浜市で開かれた第3回「ワールドキルトフェスティバル2024」。世界各地からパッチワークキルトの作品約150点が集まるコンテストで、糸賀せつ子さんの作品が第3位に輝いた。
30年前、独学で作品づくりを始めた。妥協せず、ひと針ずつ正確に縫うことを心がけ、これまで100以上の作品を手がけた。
5年前、キルト作家としての集大成となる作品の制作に着手。その直後、乳がんが発覚した。命に別条はなかったが、手術の後遺症で右腕に障害が残る。
「作業は腕の痛みとの闘いだったが、針を入れるごとに、大難を小難にお連れ通りくださった親神様・教祖への感謝の思いが湧いてきた」
題材は、雅楽の曲目の一つ『蘭陵王』。作品には母や叔母から譲り受けた着物の布や、いとこからもらった糸などを使い、これまで関わってきた人への恩返しの思いを込めた。
「数々の縁をつないでくださった親神様に感謝の思いでいっぱいになった」と振り返る。
現在は友人に手芸を教えたり、作品を譲ったりしているという糸賀さん。「人生の集大成として手がけた作品が認められ、ただただうれしい。これからも多くの人の笑顔が見られるよう、培った技術を生かしていきたい」と話した。