なぜ戦争を停められないのか – 手嶋龍一のグローバルアイ 44
2025・4/2号を見る
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異形の政治指導者トランプは「自分ならウクライナの戦いを24時間で終わらせてみせる」と豪語した。だが、新政権が船出して2カ月が経っても激しい戦闘が続いている。トランプは大統領執務室に迎えたゼレンスキーと口論となり、機密情報と武器の供与を一時差し止めてしまった。ウクライナを苦境に追い込み、高官をサウジに送り込んで「30日間の停戦」を呑ませた。トランプはすぐさま特使をモスクワに送って停戦を促したが、プーチンは言葉巧みにこれを拒絶した。
プーチンはなぜ”撃ち方やめ”の申し入れに応じようとしないのか。理由は明快である。いまの戦局がロシア側に有利に展開しているからだ。武力で奪い取った4州の大半を制圧し、ウクライナ軍に奪われたロシア領クルスクの奪還も目指している。将来の和平交渉に備えて有利な地歩を固めつつある。さらにロシア側はウクライナにNATO(北大西洋条約機構)加盟を断念させ、停戦後に英・仏などの部隊がウクライナに駐留する案も退けようとしている。
停戦が先延ばしされるほどウクライナは追い詰められていく。その一方でトランプもロシアに停戦を呑ませる切り札を手にしている訳ではない。それにつけても「ロシアに奪われた全領土を奪還するまで戦うウクライナを全面的に支持する」としてきたG7の議長国だったニッポンの責任は重い。冷酷な国際政局の現実から遊離して”外交的な言説”を弄ぶ危うさを筆者は一貫して指摘してきた。軍事力を不当に揮う側に非はあるが、不正義が敗北するとは限らない。それゆえ東アジアの大国ニッポンには、原油を買ってロシアの継戦を支える中国、インドを巻き込み、プーチンを交渉のテーブルに就かせる義務がある。ロシアの要求は和平会議の討議に委ね、まず停戦に応じるようロシア包囲網を築くべき時だろう。そして停戦後の両国の安全を担保するため、日・中・印・豪による”アジア平和維持部隊”を派遣してはどうか。日本は戦場から遠く利害も薄い――そんな声が日本国内から聞こえてくるが、だからこそニッポンは調停役にふさわしい。日本の秘めたる力を過小評価してはならない。









