続ける力 – Well being 日々の暮らしを彩る 7
2025・6/4号を見る
【AI音声対象記事】
スタンダードプランで視聴できます。
キッチンの上の棚から物を取ろうとして「わっ」。重ねてあるボウルやザルがぐらりと傾く。落ちてきたら顔面を直撃する。とっさにのけ反り、両手をバレーボールのトスのように構えて目を閉じる。周囲の床にボウル類の当たる騒々しい音が……するかと思えば静か。目を開けると、ボウル類のすべてが重なったまま手の中に収まっていた。
トレーニングのたまものかも。キャッチでき、かつ、のけ反りながらよろけずにバランスを保てたのも。
この半年ほど加圧トレーニングに通っている。腕や脚に専用のベルトで圧を加え、曲げ伸ばしなどすることにより、効果的に筋肉をつけられるもの。筋肉隆々の体型をめざす人がするイメージがあったが、重いダンベルやバーベルを持ち上げずにすみ、軽い負荷でできることから、高齢者にも適しているそうだ。
二週間に一回ジムで受けている。筋肉を増やすには、より多い方がいいらしいが、ジムに先生のいる日と合わせるのがたいへんになる。専用のベルトを使うため、資格を持つ先生のもと一対一で行うのだ。
無理なく通えるのがいちばん。筋肉隆々をめざすわけでなく、日々の暮らしを「楽」に送れる筋肉があればいい私としては。
先生は私の目的に沿うトレーニングをいろいろと考えてくれる。あえて不安定なところで立ったりしゃがんだり。弾力のあるマットや、断面が半円形のポールの上に足を乗せるなどして。自分では思いつかないことばかりで、面白い。
面白いものの、いつまで続くかは危うさが。軽い負荷とはいえトレーニングだ。翌日にうっすら筋肉痛が出るほどのつらさはある。日々の「楽」さを言うならば、トレーニングをしない方が断然、楽。ふとしたことで習慣が途切れてしまいそう。
危うさをおぼえるので、終わったらその場で次の予約を入れている。「ありがとうございました。次回はいつにするか電話でご相談します」で帰ったら、二週間なんてアッという間。二週間先の自分がトレーニングしたい状況かどうかわからなくても、一対一なので、止めると先生に迷惑がかかる。よほどのことがない限り、変更せずに行く。
「励んでいますね」。褒められて居心地悪く、意志薄弱な自分を打ち明けると、「皆さん、そう言います」と先生。予約しないと絶対に続かないと。強固な意志で体型作りをしていそうに見える皆さんですら、そうなのか。予約の力はすごいのだ。
面白い上に、効果を感じたトレーニング。次も必ず予約して帰ろう。
岸本葉子・エッセイスト