美容産業の胸算用 – 世相の奥
2026・2/18号を見る
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「性格美人」という言い方がある。人柄がすばらしい女の人を、よくわれわれはそうよぶ。「健康美人」という熟語も存在する。すこやかで明るい女性をさす言葉になっている。
だが、「性格美男」という呼称は、まず耳にしない。「健康美男」という表現も、聞くことはないだろう。「美男」は、ただルックスの良さをしめすためだけに、つかわれる。「性格イケメン」や「健康イケメン」も、われわれの語彙にはふくまれていない。
内面のかがやきが表にあらわれる人こそ、真の美人である。目鼻立ちのバランスがととのっている。それだけの人を、ほんとうの美人とみなすわけにはいかない。彼女たちは表面的な、外形上の美人であるにとどまる。そんな文句も、けっこう流布している。それこそ、人生論などの常套句として、ひんぱんに語られてきた。
しかし、こういう言いまわしも、「美男」や「イケメン」にはよりそわない。内面のかがやきいかんが、美男か否かをきめる。外形は意味をもたない。以上のような物言いは普及しなかった。なぜか。
いろいろな理由が考えられる。ここでは、そのひとつとして美容産業のことを検討したい。
多くの百貨店は一階に化粧品などの売り場をもうけている。そこで見かける商品は、ほぼ女性用である。紳士物も、いくらかはあるのかもしれない。しかし、圧倒的な多数は婦人物でしめられる。美容産業は、基本的に女性を購買者とする業態であることが、見てとれる。
この産業は、多くの女性が身づくろいに腐心することを、もとめる。ひとにぎりの特権的な美形女子だけが美容に心をくだくだけでは、うるおわない。だから、多くの女性をマーケットの戦略へくみこむよう、つとめてきた。自分はきれいじゃないからといって、ひっこみじあんにならないで下さい。あなただって、みがけば内面の光は表にだせるのですから、と。
いっぽう、男性用の美容関連商品は、売りあげが女性用に、遠くおよばない。互角に売れているのは、鬘もふくむ育毛がらみのそれぐらいか。
いきおい、業界をあげての情操教育も、女性を相手とする場合ほどには力がこもらない。「美男」が、あいかわらず美形だけしかしめさないのは、そのためだと考える。
井上章一・国際日本文化研究センター所長






