英語で道案内 – Well being 日々の暮らしを彩る 15
2026・3/18号を見る
【AI音声対象記事】
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バスや電車に乗ろうとしてバス停や駅の名前にとまどうことはないだろうか。よく似た名前で路線が違う、同じ名前だけど離れている、違う名前で実は通路でひと続きなど。そのとまどいに言葉の不自由が加わると……。東京の地下鉄、銀座一丁目の駅でのこと。地上から階段を下り改札へ入ろうとして声をかけられた。「ギンザ?」。南アジアからの旅行客と思われる中年の男女三人だ。手にはくしゃくしゃの地下鉄路線図。銀座駅にボールペンで印がついている。
私も詳しくないのだが、たしかつながっていないような。つながっているとしてもホームを経由とか通路を何回も曲がるとか相当に複雑そう。地上なら、なんとなく方角はわかるのだ。でもそれを英語で言うのは難しすぎる。駅の端っこで他に人はいない。
意を決した。「フォロー・ミー・プリーズ」。地上に出て、三人を従えて歩きはじめたものの不安だ。しばらく行くと歩道に案内板が。「ギンザ・ステーション」と三人に指し示しながら、自分が確認する必要があるのだった。
車道を挟んだ高架をJRの電車が通る。銀座から秋葉原へ行くのだと三人。秋葉原ならすぐそこに見えている有楽町の駅からJRで一本。銀座から地下鉄よりもその方が早いのだが、彼らの握り締めている路線図にない情報を言うと、ますます混乱させそうだ。私のカタコト英語では余計に。銀座駅をめざす。
人ごみの中、三人がついてきているかどうか気にしつつ、目はひたすら銀座駅の表示を探す。なかなか出てこず、通りすぎたかと不安で、ビルの前にいた初老の警備員に「銀座駅はどこですか」。もう少し先とのこと。「方角は合っていますよね」。念を入れると「東京初めて?」と聞かれてしまった。
地下鉄マークが小さなビルの脇に現れたときは心底ホッとした。この下だと階段を指し立ち去ろうとすると「あなたは乗らないのか?」と怪訝な顔の三人。私はさっきの駅へ戻ると答えると「おおー」。胸に手を当て感に堪えない表情で「なんて親切な人」と言った。
インバウンドの客の動画ではよく日本人の親切さが称讃されている。「本当なんだよ、道を尋ねるとわざわざ案内してくれるんだ!」。視聴する私は「ずいぶん奇特な人がいるものだ」と半信半疑だったが、自分がそうなってみてわかった。親切というより、口で説明するには複雑すぎるのと、英語が話せないからである。少なくとも私の場合。
「日本人親切説」のエピソードをまたひとつ増やしてしまったかもと思いつつ、銀座駅を後にした。
岸本葉子・エッセイスト










