時報歌壇 植田珠實 選(2021年5月30日号)
餅肌の手指まわして「好き」「たのしい」
曾孫は園で習いし手話する
尾道市 福島 悦子
九十七歳「ありがタイ推進運動」励みつつ
現役ようぼくさづけ取り次ぐ
東京都 小松 孝
平凡な一日が過ぎありがたし
優しき言葉を夫にも言う
福山市 藤井 光子
窓越しの面会すればなお寒し
施設の母の声無き映像
土浦市 腰山 佑子
尻尾まで餡の詰まった鯛焼きを
懐に抱きわが家に急ぐ
甲賀市 岨中 幸男
世の中に未だ知らぬ食べ物の
どれほどあるや夢はふくらむ
江南市 岡部 達雄
きさらぎの河川敷行けばふんわりと
土の温もり上がりくるなり
所沢市 三上 理恵子
時過ぎて開拓地を今訪ねれば
「熊に注意」の立て札にあう
秋田市 髙橋 重雄
潰す田を惜しみ建てたるマンションの
隅の倉庫にある耕運機
伊勢市 久保 眞二
父母の辿りし大正、昭和の道一条
己に甘きわが道を恥づ
伊勢原市 宇佐美 正治
ふるさとの母校は統合されて今、
六人ほどの新一年生
堺市 福山 久美子
妻を看る心の隅にうろうろと
棲みつく者を祓いのけたし
石川県 岩城 康徳
朝寝して昼に寝て夕にも寝ると
爺はいふなりコロナ禍のなか
高槻市 石田 たまの
子を乗せて園に急げば自転車を
かすめて港の大鷗飛ぶ
西宮市 石黒 由紀子
遠き日の母の五平餅思ひつつ
あたたかき今日は胡桃割りをり
飯田市 松尾 浩子
選者詠
虹を待つ気持ちでゐます投稿の
葉書読みつつ話しかけをり
【評】
この憂鬱な時代でも背筋を伸ばし、前を向いて生きておられる方々のお歌です。ろうあ者の福島さん、「ありがたい」と毎日を感謝しておられる小松さん、藤井さんは平凡でいられることの幸せを。皆様、どうぞ明るく生き抜いてくださいますよう。
次回は、7月末までの到着分から選歌・選句。
投稿は短歌3首、または俳句3句まで。お名前(ふりがな)、電話番号を付記のうえ、左記まで。
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