おやのことば・おやのこころ(2021年8月8日号)
十ド このたびむねのうち
「みかぐらうた」四下り目
すみきりましたがありがたい
岩手県釜石市は10年前の東日本大震災で、甚大な津波被害に見舞われました。あるとき、市内の中学校の校長先生が、涙ながらに語ってくれました。
津波の襲来後、中学校の体育館には被災した多くの方々が身を寄せていました。食べ物も十分に行き届かず、お腹を空かした子供たちの姿に居ても立ってもいられなくなった先生は、食料を求めて内陸へ車を走らせます。
内陸の街に到着し、近くのドラッグストアで間もなく食料が販売されるとの情報を得ました。早速向かいますが、そこには長蛇の列ができていました。内陸でも食料不足は深刻で、販売がやっと始まるところだったのです。先生は断られる覚悟で、店長に事情を話しました。すると店長は、拡声器を使って「こちらは津波の被害に遭った釜石の中学校の校長先生です。いま避難所には、お腹を空かした方々が大勢おられ、食料を求めてはるばるやって来られたそうです。優先的にお渡ししてはいかがですか?」と、列に向かって呼びかけました。すると「いいぞ! 持って行ってもらえ!」という声が次々に上がり、食料品の数々を快く譲ってくれました。先生はありがたくて嬉しくて、涙が止まらなかったそうです。
「十ド このたびむねのうち すみきりましたがありがたい」
人は困難に直面したとき、相手を思いやり、たすけ合う中で、本来の澄みきった心になれます。その境地こそ、陽気ぐらし世界であり、日ごろ忘れてはならない心でありましょう。
(な)