現地の旧友が語るアフガニスタン情勢 – 映画監督 井上春生さん
NHK特集番組に出演
中東アフガニスタンでは、日本時間の8月16日、武装勢力タリバンが首都カブールを制圧、政権を掌握したとの声明が発表された。いまなお国内全土で混乱が続くなか、映画監督の井上春生さん(58歳・教会本部ようぼく)は、9月11日に放送されたNHKEテレETV特集『アフガニスタン運命の8月』を企画し、自ら出演。アフガニスタンを題材にした作品を手がけるなかで出会った現地の旧友に、オンラインで現況を尋ねる様子が放送された。
1996年、国内紛争で台頭したタリバンが政権を掌握。イスラム教を極端に解釈した政策を推し進め、女性の就労や教育を制限した。
2001年9月、米国ニューヨークで同時多発テロが発生。首謀者と目された国際テロ組織「アルカイダ」のオサマ・ビンラディン容疑者の身柄引き渡しを拒否したことにより、アメリカ軍などがアフガニスタンへの軍事作戦に踏み切り、タリバン政権は崩壊した。
今年8月、対中国戦略の増強を図る米軍がアフガニスタンから撤退。復権の機をうかがっていたタリバンは、30以上の州都を支配下に置き、首都カブールへ進攻。16日、政府に対する勝利を宣言した。
緊迫する現地情勢
これまで映画監督として数々の劇映画やテレビ番組、CM演出を手がけてきた井上さん。
アフガニスタンの映画監督セディク・バルマク氏の作品『アフガン零年』に感銘を受け、2004年にアフガニスタンと日本の合作映画を制作。「アフガニスタン映画祭」を日本で4回開催するなど、およそ20年にわたって現地の人々と交流を続けてきた。
先月11日に放送された番組では、井上さんが現地で知り合った旧友にオンラインで現況を尋ねる様子が紹介された。
その中で、カブールに住む女性医師は、物価の急騰によって多くの人々が食料すら買えない状況にあるとして、「病院も安全ではない。負傷したタリバン兵が病院に運び込まれ、瀕死の状態に陥った際、『兵士を殺そうとしたので投獄する』と、治療に当たった同僚が連れ去られた」と明かした。
一方、現地の映画制作者は「アフガニスタンの多くの人々が、貧困と弾圧によってテントの下や道端、バザール、公園で餓死している」「日本からの人道的支援の継続を期待している」と訴えた。また、アフガニスタン情勢を長年調査してきた井上さんの父・昭夫さん(本部准員・元天理大学おやさと研究所長)とも面識があることから、「(昭夫さんが)いまも元気と知り、うれしく思う」と話した。
このほか番組では、過去に井上さんが旧タリバン政権下で外務省に勤めていた男性にインタビューした動画を紹介。男性は、旧タリバン政権について、麻薬取引の停止や、派閥闘争の鎮静化などの良い側面もあったことを踏まえたうえで、「イスラム教には、女性の権利についての記述が完全にある。タリバンの女性蔑視はマドラサ(イスラム神学校)の悪い慣習であり、イスラム教は、この慣習に反対している」と述べた。
テレビ出演を終えた井上さんは「かつてアフガニスタンの映画監督を日本に招いた際、人身事故によって電車が止まったことがある。当時、日本の自殺者が年間3万人を超えていることを彼に伝えると、『リッチな国なのに、なぜ自ら命を絶つのか』と驚いていた。彼らと付き合うと、こんなパラドックスに陥る。あらためて周辺を見回してみると、夕日に包まれた高層ビル群のシルエットが、空爆で被災したカブールの廃墟に重なって見えた」と複雑な心境を語った。