「日本宗教学会賞」受賞 – 天理大学講師 澤井真さん
宗教学を再構築する意欲作
天理大学講師の澤井真さん(37歳・敷土分教会教人)が昨年末に刊行した『イスラームのアダム―人間をめぐるイスラーム神秘主義の源流』(慶應義塾大学出版会)が「2021年度日本宗教学会賞」を受賞した。
天理大学人間学部を卒業後、東北大学大学院文学研究科へ進み、イスラームの研究を始めた。きっかけの一つとなったのが、20年前の「アメリカ同時多発テロ事件」だという。
「当時、高校生だった自分の中に『なぜテロが起きたのか』『ムスリムとは何者か』という深い関心が湧いた出来事だった」と振り返る。
その後、イスラームの研究を目的として、マレーシア国際イスラーム大学およびカイロ・アメリカン大学大学院へ留学。平成27年に東北大大学院博士課程を修了し、令和元年4月から天理大おやさと研究所の所員を務めている。
独自の視点から考察
日本宗教学会が主催する「日本宗教学会賞」は、宗教の学的研究の振興を目的として設けられたもの。昭和41年の設立以来、優れた業績を残した個人に対して毎年授与されている。
本書は、宗教学とイスラーム学を橋渡しすることによって、「宗教」概念の再構築を試みた作。
澤井さんは執筆の動機について、「現在の宗教学は、およそ西洋キリスト教世界を背景にしているため、イスラームなど、その範疇に収まらないものは除外されてきた経緯がある。イスラームを含めて宗教学を、あらためて捉え直すべきではないかという問題意識があった」と語る。
両者の“懸け橋”となったのは「宗教とは、人間としての真の生き方を探求する営みである」とする人間学的アプローチだ。スーフィー(イスラム神秘主義者)が、ユダヤ・キリスト教にも共通する「最初の人間」アダムを、人間のあり方を考えるうえでの重要な手本としてきたことについて、独自の視点から考察を試みている。この点について、同賞選考委員会では「人間学の分野において、宗教学者に広く刺激を与える貢献をなしている」と、その学術的意義を挙げている。
澤井さんは「宗教学を通して他者の信仰を学ぶことは、お道の教えの素晴らしさを再認識し、信仰への気づきを得ることにつながっている。宗教学研究は、教えの理解を深める天理教学と“二つ一つ”だと思う」と話している。