映像で描く二人の詩聖の友情 最新作 国際映画祭42冠に輝く 映画監督 井上春生さん – ようぼく百花
映画監督の井上春生さん(60歳・教会本部ようぼく・東京都新宿区)の最新作『眩暈 VERTIGO』が昨年12月、東京都内の劇場で国内初公開された。
この作品は、“アメリカ前衛映画の父”と称されるリトアニア出身の詩人・ジョナス・メカス(1922‐2019)の一周忌に、メカスの盟友である詩人・吉増剛造氏が米国で追悼詩を捧げる姿を追った長編ドキュメンタリー。昨年、海外各地の国際映画祭に出品するや、グランプリや最優秀監督賞など42冠(昨年12月末現在)を達成。日本のドキュメンタリー作品としては異例の快挙となった。
「2022年はメカス生誕100年の年。そのタイミングに、作品に高い評価を頂いたのは、このうえない喜び」と井上さん。
「東西の偉大な詩聖へのリスペクトを込め、巡礼にも似た思いで取り組んだ」と振り返る。
巨匠の問いかけに応え
2018年2月、ニューヨーク・ブルックリン。井上さんは、前作『幻を見るひと』への感想を寄せたメカスと会い、同作について直接話を聞いた。
その際、吉増氏が再び詩作に向き合うまでを追った同作へ賛辞を贈ったメカスは、井上さんに「次に何を撮るつもりか?」と問いかけた。
井上さんは言葉に窮した。「撮りたい人が目の前にいる……」。思いを伝えられないまま井上さんは帰国。その翌年、メカスは96歳で天寿を全うした。
巨匠の問いかけに応えるかのように、井上さんはメカスを題材にした映画を企画。20年1月、吉増氏と数人の撮影クルーを伴って渡米し、撮影に取りかかった。
その後、井上さんは公開時期が未定のまま編集作業を続け、一昨年秋に作品を完成させた。
映画で人と人をつなぐ
作品の制作中、アフガニスタンで武装組織タリバンが政権を掌握。また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻と、世界を震撼させる出来事が相次いだ。
映画を通じてアフガニスタンの人々と交流を深めてきた井上さんにとって、異国の有事は他人事ではなかった。首都カブールに住む友人から助けを求める連絡が絶えず入ってきたという。
「よその国の出来事が、自分の生活のすぐ傍らにある。世界が地続きにつながっていると感じた」
自国に留まる者、やむなく国外へ逃れる者。それは先の大戦で祖国を追われ、移民として渡米したメカスの生きざまとも重なった。井上さんは「今まさに“現代のジョナス・メカス”が生まれている」と憂う。
同作では、吉増氏がメカスゆかりの地を巡る。そして、引っ越し作業が進むメカスの事務所でめまいを起こし倒れた吉増氏は、湧き上がるメカスへの哀惜を詩に紡いでいく。国を越えた二人の固い友情と、詩人として通底する魂の共鳴を、カメラが優しく追う。
長年、映像の分野で多彩に活動してきた井上さん。「混迷を深める今の時代だからこそ、トゥギャザネス(連帯感)という感覚が必要。点と点をつなぐ線のように、映画という線で人と人、人と世界をつないでいけたら」と、これからを見据えて語った。
映画『眩暈 VERTIGO』上映スケジュール
兵庫
1月14日~20日 神戸・元町映画館
東京
1月20日~ 東京・シモキタエキマエシネマK2(終了未定)
ほか、国内および海外で公開予定。詳細は「HUGMACHINE」ホームページまで