平和のメッセージを筆に込めて – 話題を追って
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天理中学校・天理高校出身の前衛書道家
吉田良子さん
大小さまざまな筆を自在に操り、紙いっぱいに墨を走らせる――。天理中学校、天理高校出身の前衛書道家・吉田良子さん(雅号=吉田綾舟・67歳・岡山市)は昨年11月、書道の魅力を世界へ発信する公募展「NY国際書道展2025秋冬」で優秀賞を受賞した。海外で展覧会や講演活動を精力的に行うなど、世界を股にかけて活躍する吉田さんが書道に込める思いとは――。
岡山市内に構える自宅兼アトリエには、書道用具や参考書籍、書き上げた作品が所狭しと並ぶ。万葉集など東洋の古典を素材とする「現代詩文書」を専門として、これまで150以上の作品を制作してきた。現在、国内外で展覧会やワークショップを開く傍ら、海外出身の4人を含む11人の弟子を教えるなど、後進の育成にも力を入れている。
毎日必ず筆を執ることを大切にしている。練習の際は、手本を傍らに置く「臨書」を中心に行い、本番では下書きは一切しないという。「文字がきれいに紙枠にはまったとき、これは自分の力ではないと思う瞬間がある。そのたびに神様のご存在とお働きを実感する」
バレエから書道へ
奈良県のようぼく家庭に生まれた。小学校から高校まで書道を習う一方、自宅近くにあった東大寺などの寺社に自ら足を運ぶなど、芸術に幅広い関心があったという。
大学卒業後に上京し、夫の浩さんと結婚。その後、浩さんの仕事の都合でロシアへ渡った。不慣れな海外生活を送るなか、心の支えとなったのがバレエ鑑賞だったという。世界最古のバレエ団の一つ「ボリショイ・バレエ団」の観劇のため、毎週のようにボリショイ劇場へ通い、帰国後は日本で本場のバレエを普及させたいと、岡山市でNPO法人を立ち上げ、ロシアから指導者を招いてバレエ・セミナーを運営するようになった。
知り合いから「書道をしてみないか」と声をかけられたのは、それからしばらくしてのこと。「何かを教わることで、新たなエネルギーを得られるかもしれない」と直感した吉田さんは、再び書道の世界へ。前衛書の大家である故・笹野舟橋氏に師事し、10年以上にわたり研鑽を積んだ。
2005年、転機が訪れる。かねて親交のあったボリショイ・バレエ団初の外国人ソリスト・岩田守弘氏からの申し出により、ボリショイ劇場でのバレエ公演で、吉田さんの書いた「魂」の文字が使われたのだ。以降、書道家としてその名前を世界に知られることになる。
その後、14年には、ロシア出身のカリグラファーとコラボした作品が、サンクトペテルブルクで開催された第2回「グラフィック・トリエンナーレ」でカリグラフィー賞を受賞。22年には、海外での展覧会や書道に関する講演活動における功績が認められ、ルクセンブルクのピナコテーク美術館から「芸術功労証書」を贈られた。
さらに昨年11月には、「NY国際書道展2025秋冬」で優秀賞を受賞。出品した7点の作品で、総合的に評価された。
なかでも高い評価を受けたのが「翔ぶドラゴン」。中国の古代文字である金文の「区」を竜に見立て、前向きに進んでいく人生の区切りをダイナミックに表現した作品だ。審査委員から「躍動感やいろいろなものが見えてくる。コンテンポラリーアートとしても素晴らしい」と称賛された。
吉田さんが教えの中で特に大事にしているのは、「陽気ぐらし」と「一れつ兄弟姉妹」だという。「芸術は、言葉が違っても平和のメッセージを伝えられる手段だと思う。周囲の支えや新たな出会いへの感謝を忘れず、世界中の人々が笑顔で陽気になれるような作品を届けていきたい」
(文=高田悠希)













