天理時報2022年6月8日号8面
【「弦楽教室」で特別レッスン – ビオラ奏者 元渕舞さん】アメリカを代表する実力派カルテット「ボロメーオ弦楽四重奏団」のビオラ奏者として活躍し、今夏で四重奏団からの引退を表明している元渕舞さん(48歳・名髙分教会教人)が帰国。かつて指導を受けた天理教音楽研究会「弦楽教室」で、生徒たちに9日間の特別レッスンを行った。「弦楽教室」で特別レッスンを行う元渕さん(5月27日、音楽研究会で)元渕さんが「弦楽教室」に入ったのは5歳。バイオリンを岩谷悠子、東儀祐二の両氏に師事し、18歳で天理教一れつ会派遣留学生として渡米。同時にビオラへ転向し、ミシガン州立大学とライス大学大学院で才能に磨きをかけた。在学中は、世界中の音楽専攻の学生が集まる「タングルウッド音楽祭」に3年連続せいじで招待され、小澤征爾氏の指揮で、世界的チェロ奏者のヨーヨー・マ氏と『ドン・キホーテ』を共演した。大学院を了えた元渕さんは、2000年「ボロメーオ四重奏団」のビオラ奏者に。20年以上にわたって世界中の主要ホールで公演、成功を収めてきた。その評価は、辛口で有名な「ニューヨーク・タイムズ」をして、「アメリカが世界に誇るカルテット」と評せしめた。3年前、天理教音楽研究会が主催する「おうた演奏会兵庫公演」に出演。弦楽教室創設の趣旨は、お道の演奏家の手で「おうた」を演奏するためと教わっていたことから、終演後には「音楽家の原点に返る思いがした」と語っている。感性や個性を大事に世界中で演奏活動を行う一方、世界有数のニューイングランド音楽院の教授として後進の指導に力を注ぐ元渕さん。東アジアで公演がある際は、合間を縫って日本へ帰国し、一時的に「弦楽教室」で指導に当たることもあったが、「音楽研究会の室内楽は、自分が育った原点。教室に通う子供たちと、もっと関係を密にしたい」との思いが常にあったという。今回、四重奏団からの引退を表明した元渕さんは、「弦楽教室」での指導に向けスケジュールを調整。5月26日から6月3日までの9日間、モーツァルトやハイドンなどの四重奏曲を題材に集中的にレッスンを行った。なかには、四重奏の経験が浅い生徒も。そんな子たちには、「最初に弾いた時の気持ちや印象がとても大事。演奏回数を重ねても、この瞬間のフレッシュさを思い出すことができれば、演奏する楽しさが自然と感じられるはず」と言葉をかけるなど、作品との向き合い方についても親身に指導した。レッスン後、元渕さんは「私自身の次のステップである指導者としての原点を確かめる意味でも、長い時間を使って『弦楽教室』での指導に当たらせていただいた。子供たちには、自分の感性や個性を大事にして、作品について自分で考えたり感じたりする力を養ってほしい」と語った。なお、元渕さんによる本紙エッセー『幸せへの四重奏』に書き下ろし2編を加えた単行本が7月26日に発刊予定。下記URLから、元渕さんを取り上げた過去記事を閲覧できる。https://doyusha.jp/jiho-plus/pdf/20220608_onken.pdf, 【第15話「わが家は安全ではない」 – ふたり】ときどきビョーンさんは、夕食をとるためにカンのレストランを訪れる。彼に言わせれば、省吾さんのところの豚肉も、のぶ代さんが作るソーセージやベーコンも、故国ドイツのものに劣らずおいしいのだそうだ。これらの肉料理にポテトとキャベツの漬物を添え、冷たいビールをテーブルに運ぶと、彼の顔はみっともないくらい幸せそうにほころぶ。その日は、ハハとカンも食事に加わった。ハハは学生のとき訪れたドイツで食べたパンによって人生が変わったという人なので、ビョーンさんとは話が合う。「ドイツにそんなうまいパンがあるとは」「なんの変哲もないライ麦パンなんだけどね」カンはテーブルを立って、新しい料理を運んできた。そのあいだも二人はパンやビールやワインの話をしていた。ハハによると、パン作りでいちばん大事なことは、いい小麦を見つけることらしい。小麦は生命力の強い植物なので、暑い土地、寒い土地、高地でも低地でも栽培され、世界中の人々の主食になっている。一万種に及ぶという小麦のなかから産地を選び、品質のいいものを厳選し、さらにイーストや焼き方、他に加える材料なども工夫して……。ディナーも終盤に近づき、カンがサーバーにコーヒーを淹れて戻ってきたとき、ハハはさとしのことを切り出した。「ドイツでもやっぱりそういう問題はあるの?」驚いたことに、ビョーンさんの国では毎年大勢の女性が夫やパートナーによって殺されており、その数はヨーロッパでも一、二を争うほどだという。「いま政府がキャンペーンをやっています。日本語でいうと、わが家は安全ではない」ハハはかなりショックを受けた様子だった。無理もない。自分が理想とするパンと出会った国が、そんなひどいことになっているのだから。ビョーンさんの妹はソーシャルワーカーの資格をもっていて、被害者の女性や子どもたちを支援する施設でスタッフとして働いているらしい。「シェルターみたいなところ。女性が夫やパートナーから逃げてくる。悲しいね。そんな施設がドイツにたくさんある。ヨーロッパ中にある。でも全然足りない」不思議なことだ。好きで一緒になった相手に暴力を振るったり、ときに殺してしまったりする。どうしてそうなるのかわからない。犬は気の合った相手を噛み殺したりはしない。他の動物だってそうだろう。人間だけが特別なのだ。