天理時報2022年5月25日号8面
【第14話 助けを求める力 – ふたり】少年は月に一度か二度、母親と一緒にやって来た。カンは彼を車に乗せて、あちこちへ連れていった。海へ行くこともあれば、省吾さんの農場を訪れることもあった。そのあいだ母親のほうは、ハハとともにレストランの仕事を手伝った。名前を、さとしという。もうすぐ小学五年生になる。わたしは彼をカンの子どものころに重ね合わせてみる。あのころのカンは、いろんなことに興味をもっていた。虫に夢中だったこともある。本ばかり読んでいたこともある。いつも何かに夢中だった。さとしは反対である。どこへ連れていっても、何を見せても興味や関心を示さない。ただぼんやりして、そこにいるだけだ。喜んでいるようにも、楽しんでいるようにも見えない。どんな感情も表に出すことがない。省吾さんの農場へ連れていったとき、怪しいやつが来たと思ったのか、例の茶色の雑種犬が吠えかかった。さとしはなんの反応も示さなかった。母親によると学校での勉強に問題はないらしい。それどころか成績はクラスでも一番か二番なのだそうだ。学校の勉強や成績が、いかに当てにならないかわかる。誰が見ても、この子は問題を抱えている。新太などに比べると、とても健康に育っているとは思えない。こんなにぼんやりしていては、ちゃんと生きていけるかどうか心配だ。「専門のスタッフに相談したほうがいいと思うけどな」。ハハは言った。「あの人の話を聞いていると、ご主人のことを根はやさしくていい人だと思っているみたい。実際、さとし君にはやさしくて、よくお土産なんか買ってくるんだって。いいことかどうかわからないけど。いちばんの問題は、夫が暴力を振るうのは自分のほうに原因がある、と本人が思っていることね。彼女がそういうふうだと、さとし君だって混乱してしまうんじゃないかな。どんな理由があっても、暴力は暴力なんだから。悪いことなんだと、はっきり教えなきゃ」命なんて不公平なものだ、とわたしは思った。やさしかったトトがあんなに早く亡くなり、自分の息子を病人にしてしまうような男が生きながらえている。「相談するのが怖いのかもしれない」。そう言って、ハハは複雑な表情でカンを見た。「知られると、また暴力を振るわれるから。彼女のほうも、さとし君と同じように、自分を表に出すことができなくなっているのかもしれない。助けを求める力を奪われたら、その人は生きていけない」わたしはハハの口調にトトを感じた。彼女がいま話しかけている相手は、カンであるとともにトトであるような気がした。ハハの目には、誰がどんなふうに映っているのだろう?, 【阪神大学リーグ3季連続V – 天理大野球部】天理大野球部は、阪神大学春季リーグで3季連続優勝した天理大学野球部は5月7日、神戸市のほっともっとフィールド神戸で行われた阪神大学春季リーグ戦第5節で関西国際大学と対戦。リーグ優勝を懸けた直接対決に引き分けたが、ポイント数でトップになった天理大が、リーグ3季連続優勝を決めた。「選手から動く」をチームスローガンに掲げ、選手が率先して意見を出し合いながら、守り勝つ野球を目指してきた同部。オープン戦では、昨年の「全日本大学野球選手権記念大会」で日本一に輝いた慶應義塾大学と対戦し、5‐4で勝利した。4月9日の阪神大学春季リーグ開幕戦、先発の真城翔大投手(3年)が相手打線を七回まで4安打に抑え、5‐0で白星スタートを切った。さらに翌日は、リーグ戦に向けて調子を上げてきた藤居海斗投手(同)が先発し、7‐0(八回コールド)で2連勝を飾った。続く第2節の甲南大学戦では、初戦を2‐0で勝利したものの、2戦目は天理打線の快音が響かず、1‐2で敗れた。試合後、選手らはミーティングを開き、負けた理由を分析。一方向への打撃を繰り返す“淡白な攻撃”になっていたことを反省し、逆方向に打ち分け、粘り強く戦うことを確認し合った。その後は大阪産業大学戦で七回コールドを含む2勝を挙げて波に乗ると、続く大阪体育大学戦でも五回コールドで勝利するなど、白星を重ねていく。迎えた最終節。リーグ1位の天理大は、同2位の関西国際大との直接対決に臨んだ。引き分け以上で優勝が決まる第1戦。一回表、天理大先発の藤居投手が2三振を奪い、三者凡退に抑える。直後の裏の攻撃、中川彰選手(3年)がヒットで出塁すると、プロ注目の友杉篤輝選手(4年)が右中間へ三塁打を放ち、先制点を挙げた。その後は拮抗した試合展開となり、初戦は2‐2で引き分け。翌日の最終戦を待たずに3季連続22回目のリーグ優勝を決めた。翌日の最終戦は天理大が9‐3で勝利し、8勝1敗1分けでリーグ戦終了。友杉選手が最優秀選手賞と首位打者賞に輝き、真城投手が最優秀投手賞を受賞。ベストナインに真城投手、小林太郎選手(3年)、近藤遼一選手(同)、友杉選手が選ばれた。リーグ戦の結果を受け、天理大は6月に行われる「全日本大学野球選手権大会」に出場する。藤原忠理監督(56歳)は「3連覇を目指してスローガンを実行した成果が、しっかりと出たリーグ戦だった。この形を全日本大学選手権でも発揮し、勝ちを収めていきたい」と語った。岩本大輔キャプテン(4年)は「一つの目標に向かってチーム全員で乗り越えてきた。全日本では、これまでの最高成績であるベスト8を超えることを目標に、全員野球で戦っていく」と力強く話した。◇全日本大学野球選手権大会は、明治神宮球場と東京ドームを会場に6月6日に開幕する。天理大の初戦は6月7日、愛知大学野球連盟の代表校と対戦する予定。(5月18日記)