天理時報2021年8月29日号8面
天理時報創刊セ懸賞エッー入選作品テーマ「かしもの・かりもの」を心に天谷直純77歳・北野櫻分教会ようぽく・札幌市母が遺した一灯これまで幾多の人生の変転を経て、妻と共に老境の歩みに至っている。果たして、この人生は偶然の産物か、あるいは自身の意思によるものか、それとも長年の疑問が、修養科での験によって腑に落ちた。「身体は神からのかりもの、心のみが自分のもの」。この教えに、すべての疑問に対する答えがあることを知るまでに、随分と時間がかかった。戦後間もなく、父が肺結核を患い、にをいが掛かった。父は衰弱した身体を押して、おぢばへ帰った。しばらくして戻った父が、よろけるようにバスから降りてくる光景は、今もはっきりと覚えている。父はその半年後に、母と二人の幼子を残して出直した。夫の死という悲しみを越え、母の信仰は確固たるものになった。教会の月次祭には家族3人で10㌔余りの山道を徒歩で越え、交通の便が良くなると路線バスを乗り継いで参拝した。母は折にふれて、わが家のいんねんについて話した。しかし少年だった私には、その意味するところが理解できないまま、多感な時代が過ぎていった。長じてからは、そのことが心の奥に引っかかってはいたが、朝夕のおつとめは疎かにし、仕事にかまけて教会からも足が遠のいた。故郷に住む母が訪れた際、神棚に向かって一心にとめをする姿に、自身の不ない信仰の姿を重ね合わせ、じろぐばかりだった。定年を迎えて第二の人生”が始まると、老いた母は盛んに修養科を勧めたが、「そのうちに」と言ってなだめすかした。だが、歳を重ねるごとに私の中で修養科への思いが募っていった。いつも見守ってくれた会長さんのこと、母の思い、何よりも父の生きた年月を遥かに超え寿命のご守護への感謝私はようやく後期高齢者入り目前にして、おぢばへ向かった。母はすでに出直していたが、快の思いで遠くから見てくれているであろうことを心の糧に修養の日々〟を送った。しかしある日、詰所の浴槽を掃除していたときに転倒し、肪骨3本を折った。神のひざ元で、どうして苦難を受けるのか、痛みに耐えながら自問自答した。思い返せば、これまで何度か死の危機をかいくぐった。バイク事故で道路下へ転落したこと、横断歩道で私の顔を擦るような距離をトラックが走り抜けていったこと――。そして命永らえて、たどり着いた修養科の道。これらの節も、神が私に与えた信仰への目覚めを促すメッセジ〟だったかもしれない。そ気がつくと、骨折のことなど忘れ、深い幸福感に浸っていた。人間とは何か。なぜこの地で生きるのか。それは神がなしたことであり、理屈でも哲学でもない。素直な心で神と向き合う人生から、陽気ぐらしの本筋がはっきりと見えてくるだろう。母が遺した一灯の明かりは、私の中で大きな光となって煌めいている。いつまでの命かは知る間もないが、神の差配のままに、感謝の心でこれからも通っていきたいと思う。(要旨)手嶋龍一のグローバルアイ5アフガンの悲劇、ニッポンの危機あの未明にかかってきた電話は、いまも鮮明に憶えている。アフガニスタンの首都カブールに多国籍軍が突入しつつあり、あと5分後に生放送を――。ワシントン支局前のホテルで仮眠をとっていた筆者は、とっさにベッドから這い出した。隣室に泊まっていたBBCの支局長の電話もけたたましく鳴っている。同じく緊急の呼び出しを受けたのだろう。911同時多発テロ事件の翌10月のことだった。国際テロ組織とアルカイダを寄生させているならず者国家を区別しない。米国はそう断じてアフガンからイラクへと突き進んでいった。こうして「ブッシュの戦争」は幕をあけた。そのアフガンから米国はいま撤退を余儀なくされている。テロとの戦いに700兆円あまりを注ぎ込み、7000人の米兵の命が喪われた。この20年の戦いは超大国の完敗に終わった。前線から物言わぬまま帰国した兵士が、アーリントン墓地に埋葬される場面に幾度居合わせたことだろう。星条旗に包まれた棺に寄り添う妻子の顔がいまだに脳裏を去らない。米国はテロとの戦いで何一つ達成できないまま、アフガンから放逐されつつある。バイデン大統領は、ガニ大統領が早々に祖国を去ったことをあげ、「米国の兵士の命だけを危険に曝すわけにはいかない」と述べ、撤退の方針に誤りはないと釈明する。国内向けのメッセージとしては確かにそうなのだろう。だが、バイデンの決断は、日本など同盟国との絆に甚大なダメージを与えずにはおかない。戦後の米国は、義を見てせざるは――とばかり、時に過剰なほど他国の紛争に介入した。同盟関係にない国が侵略されても介入をためらわなかった。冷戦の終結直後にイラクが隣国クウェートを冒した時がそうだった。常の国家なら、国益と兵士の命を天秤にかけて対外政策を決める。だが、戦後世界のリーダーだった米国が新たな孤立主義に傾けば、漁夫の利を得るのは〝海洋強国〟として周辺の海域と島々を勢力下に収めようと狙う中国だろう。世界の紛争にはもう関わりたくないそんな米国の消極姿勢は、直ちに日本列島に及ぶと見ていい。その意味で、アフガンの悲劇は、ニッポンの危機だと心得るべきだろう。