天理時報2021年7月25日号8面
天理時報創刊90年記念懸賞エッセー入選作品テーマ私の「陽気ぐらし」小野崎宰84歳・宇泉分教会長・栃木県矢板市〝宝の山〟へ登る道を「神様なんて、どこにいるんだ!」Yさんは激高した。私が話しかけた親神様の話を、彼はこう怒鳴って拒絶した。Yさんとは、数年前のにをいがけで知り合った。彼は四畳半ほどの小屋に一人で住んでおり時折、訪ねていた。知り合って2年目の正月。鏡餅のお下がりを届けに立ち寄ったところ、表情はうつろで呂律が回らない。三日前から左半身がまひし、立てなくなったとい手元に積んでいた薪で暖を取り、溜め置きの水だけを飲んでいた。電話がなく、助けを求められない。そこへ私が訪ねたのだ。教祖のお導きに感謝した。その後、Yさんは半年間の入院治療を経て、歩けるまでに回復。しかし、これまでのようにエ転車に乗れず、買い物へ行けなった。私は教祖から任されたおたすけに奔走した。Yさんを車に乗せて買い物へ行く。買い出しを終え、彼の小屋でひと休みしたときに、私が親神様の話を始めたところ、冒頭の暴言に続いて「いるなら、ここに連れてきてみろ!」と声を荒らげた。いつか神様の存在を知ってもらえるようにと、彼のもとを毎週訪ねた。そんななか、彼の話を聴くうちに、不遇な境遇に胸が痛んだ。不幸が続くたびに天を呪い、自分の力だけを頼りに生きてきたようだった。親切の限りを尽くしたつもりである。だが、Yさんとの別れは突然訪れた。一昨年2月、数日ぶりに訪ねると、頭から毛布をかぶったまま冷たくなっていた。極寒のなか、ストーブの火が消えかかって寒くなっても、起き上がる気力が出ずに力尽きたようだった。その夜、9年間にわたるおたすけについて考えた。おぢばに誘っても断られ、おさづけの取り次ぎも拒絶された。私がしてきたことは、果たしておたすけだったのか――。抗えない虚しさが心の奥底まで染み込んだ。『稿本天理教教祖伝逸話篇』に「宝の山」というお話がある。教祖が仰せられる宝とは、目に見えない徳であり、陽気ぐらしの姿が身の周りに起こってくることだと思う。信仰が浅いとき、この教えを信じていいのか迷ったとしても、迷いがなくなって地に足の着いた信仰生活に入った先に、宝の山へ登る道がある。にをいがけ・おたすけでの苦労の道中が、宝の山に至る道筋であり、陽気ぐらしへ続く道であると思う。そう信じて実践してきたつもりが、この結末である。彼が出直した翌朝、別件で市役所を訪れると、社会福祉課長が「身内の方が遺骨の引き取りを拒否していて……」と打ち明けてくれた。教会の納骨堂のことを話すと、即座に認可された。教祖が絶妙なタイミングで導いてくださった。出直し後ではあるが、Yさんが神様とつながることができたと思い、感涙した。後日、彼の身内の人や支援者が数人、教会へ参拝に来て、納骨堂に花を手向けてくれた。彼が導いてくれたのだと思う。私は、これからも陽気ぐらしへの山道を懸命に這い上がっていきたいと強く決意した。(要旨)手嶋龍一のグローバルアイ4憧れの星、大谷翔平『銀河鉄道の夜』-この作品が生まれた岩手県花巻は、宮沢賢治と大谷翔平のふるさとだ。花巻東高校から日本ハム・ファイターズを経てメジャーリーグ、エンゼルス入りした大谷翔平はいま、日米の少年少女にとって憧れの星になった。私はかつてアメリカ東海岸で十数年を過ごしたが、彼の地の子供たちは球技がほんとうに好きだった。ボストンでは引っ越したその日に近所の子供たちが押しかけてきて、彼らが神のように崇めるプロ・バスケット・チーム「セルティックス」のどの選手が好きかと質問攻めにあった。たちまち意気投合し、フェンウェイ・パークに地元野球チーム「レッドソ「ックス」の応援に出かけた。イチローは彼らの好敵手だったが、皆のお気に入りだった。「イチローは日本人だぜ」と教えようとしたが、「彼はアメリカ人だ」と頑として聞き入れなかった。投打の二刀流として活躍する大谷翔平は、野茂英雄やイチローを超えてアメリカの少年少女にとって特別な存在になりつつあると思う。早くも33本のホームランを放ち、投手としても4勝を挙、げオールスター・ゲームに史上初めて二刀流で選ばれたが、それだけが理由ではない。大谷翔平というプレーヤーの全人格に尊敬のまなざしが注がれている。球場の塵をさりげなく拾い、折れたバットを相手にそっと手渡し、ぶつかりそうになった審判をいたわってみせる。そんな大谷翔平の後ろ姿が、この国の若者の心を惹きつけてやまないのである。将来こんな選手になりたい――。花巻で野球少年として過ごしていた頃、大谷翔平は日々のノートに目指すべき目標をはっきりと綴っていた。投打の二刀流も、メジャーリーグでの活躍もあるべき人間像も、すでにそのノートに記されており、ひたむきにその目標を追い求めてきたのである。ひとりでは世界を変えられない。だが、たったひとり大谷翔平の存在が多くの子供たちを衝き動かし、それが混迷したいまの世界を変えるきっかけになるかもしれない。