天理時報特別号2021年9月号3面
だから私たちは、言葉や文字を使って心に思うことを伝え合うのですが、それが思っていることのすべてではありません。むしろ、言葉や文字に表せない気持ちのほうが心の底にたくさんありますから、お互いに察したり感じ合ったりすることで、円満な関係が保てるのだと思います。渋沢翁は、銀行や鉄道などの企業経営を手掛ける傍ら、東京養育院の運営など、社会福祉事業の発展にも大きく貢献しました。その根底には、母親の慈悲深い人間性が色濃く反映していたといわれます。彼は、人の心の奥底にある悲しみや苦しみを感じ取る能力にも長けていたのです。さて、私たちの生活用品や食料品、衣料品など、物にも、それを作る人、育てる人、運ぶ人たちの心が込められていると言えるのではないでしょうか。もちろん金銭にもです。つまり、生活するということは、物質や金銭だけでなく、その奥にある人の心、たとえば生産、流通、販売などに携わる数々の意思と心根によって支えられていることになります。さらに言えば、自然界の営みや身体機能の裏側にも、には見えない神様の思惑が働いています。神の思惑とは、人間がわが子を思う心と同じ。「幸せになってほしい」のひと言に尽きます。肉眼には映らなくとも、心に映る世界は必ずあります。そして、心が澄めば澄むほど世界中の喜怒哀楽が心に映り、人は生きているのではなく、生かされていることに気づくのです。そこから湧き上がるのが、本当の感謝と慎みではないかと私は思います。大河ドラマは、これから佳境に入っていきます。吉沢亮さん扮する渋沢栄一の、人の心と地下水脈を見抜く演技にも注目しながら見ていくと、一層楽しいかもしれません。私の好きな風景表紙のはなし西薗和泉「ラムネ瓶」残暑払いに、庭で咲いた花を涼しげなラムネ瓶に活けてみました。花のラインアップは、ミズヒキ、キンミズヒキ、ヤブランです。写生場所…..…自宅にてIzumiNishizonoにしぞの・いずみ1960年、奈良県天理市生まれ。84年、京都市立芸術大学油画科卒業。2021年まで天理中学校美術教諭を務めた。著書に『木かげと陽だまり水彩こころの覚え描き』(道友社刊)がある。