飲食店での迷惑行為に思う – 視点
飲食店での迷惑行為動画がインターネットで拡散し、問題になっている。その動画には、回転寿司店のほかの客が注文した寿司にワサビを乗せる、つまみ食い、唾液を付ける、湯飲みや醤油差しを舐めるなどの行為が映し出されている。その行為に道徳的節度はなく、「バレなければよい」という態度も感じられ、倫理観の欠如と批判されている。善悪の判断や自らを律する規範のない姿ともいえる。
評論家の山本七平氏は『日本の伝統と教育』という著作の中で、日本人の倫理観について次のように述べている。
規範には外的と内的があり、外的規範は法律に代表される。日本の法律には「人を殺してはいけない」とは書かれていない。人を殺せば処罰されるのが法律であり、「これをしなさい」「これをしてはならない」という倫理的規範ではない。
一方、すべきか、すべきでないかを自らの心で決めるのが内的規範で、内的規範には一人ひとりに絶対的な規範があることが不可欠であるという。
「絶対的」とは何にも制限されず、ほかに比較や対立するものがないこと。それに対するのは「相対的」で、時代や世論、また個人の都合や取り巻く環境によっても規範は変わる。
筆者は教誨師として受刑者の更生に携わるが、現場では再犯率問題が深刻だ。2021年の『犯罪白書』によると、再犯率は過去最悪の49.1%だった。法務省では防止対策として出所者への就労支援などに力を入れるが、更生の扉を開く鍵は、環境や人間関係に影響されない絶対的な規範を持たせることではないだろうか。
教祖は「世界の人が皆、真っ直ぐやと思うている事でも、天の定規にあてたら、皆、狂いがありますのやで」(『稿本天理教教祖伝逸話篇』31「天の定規」)と、教えに基づく生き方を示された。山本氏は、「外的、内的規範によって社会が成り立っている。そのどちらがなくなっても社会は崩壊する」と警鐘を鳴らした。
一人ひとりが天の定規を身に付けることが世の治まりにつながる。そしてそれは、陽気ぐらし世界へ近づく歩みでもある。
(加藤)